怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

海辺のガチャガチャ 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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僕が住んでいるのは、海辺の小さな町。観光客もあまり来ない静かな場所で、特に目立ったものはないけれど、古びたゲームセンターが一軒だけあった。子供の頃、友達とよく遊びに行っていたそのゲームセンターは、今ではほとんど人が来ないし、薄暗くて時代遅れな感じが漂っていた。でも、懐かしさから時々ふらっと立ち寄ることがある。

ある日、久しぶりにそのゲームセンターに行った時、ふと片隅に見慣れないガチャガチャを見つけた。ガチャガチャ自体は昔からそこにあったのだろうが、こんなデザインのものは見たことがない。錆びついた機械で、ペイントもところどころ剥がれ、随分と古びている。なぜかそのガチャガチャが気になり、僕は好奇心からコインを入れてハンドルを回してみた。

カプセルが「カチャン」と出てきた。手に取ってみると、まるで時間が止まったかのように、古ぼけた感じがするカプセルだ。中を開けると、なんとそこには、小さい頃に友達とよく遊んでいたおもちゃが入っていた。

「これ…」

そのおもちゃは、確か僕が小学生の時に、放課後に突然手のひらに現れたものだった。どこで手に入れたのかは覚えていない。ただ、気づいた時には手の中にあり、友達と放課後の教室でよく遊んでいたものだ。

不思議な感覚に包まれた瞬間、周りの空気が変わった。ふと気づくと、目の前には見慣れた風景が広がっていた。僕は、いつの間にか小学生の姿に戻り、周りは自分が通っていた小学校の教室だった。

「え…なんで…?」

教室の窓から差し込む夕日が眩しい。どうやら放課後のようだ。懐かしい匂い、教室の机と椅子の並び。僕は一瞬、状況が理解できずに立ち尽くしていたが、そこへ昔の友達、タケシが声をかけてきた。

「おい、何してんだよ?手に何持ってんの?」

僕は驚きながら手のひらを見た。そこには、ガチャガチャのカプセルが握られていて、中にはあのおもちゃが入っていた。小学生だった頃、何度も遊んだあのおもちゃ。

「これ…あの時のおもちゃだ…」

タケシは僕の手元を覗き込み、「お、面白そうじゃん、それで遊ぼうぜ!」と言って、僕を誘った。僕たちは昔と同じように、そのおもちゃで遊び始めた。懐かしさが込み上げてきて、まるで時間が巻き戻ったように感じた。教室で笑いながら遊んでいた頃の記憶が鮮明によみがえり、その瞬間だけは何もかもが昔と同じだった。

「楽しかったな…」

やがて、タケシがふと時計を見て「あ、こんな時間だ。もう帰るわ!」と言った。僕は名残惜しさを感じながらも、タケシを見送ることにした。

すると、タケシが教室を出た瞬間、突然目の前が真っ暗になった。

「えっ…」

気づくと、僕は元の古びたゲームセンターに戻っていた。あのガチャガチャがあった場所には、もう何もなくなっていた。僕は慌てて手のひらを確認したが、カプセルもおもちゃも消えていた。まるで最初から何もなかったかのように。

僕はしばらく呆然と立ち尽くしていた。あれは夢だったのか?いや、あまりにも現実的だった。タケシと遊んだ感覚、懐かしい教室の匂い、そして、あの手のひらに残っていたおもちゃの感触。すべてが鮮明だった。

ただ、目の前にあったはずのガチャガチャは消えていて、もう二度とあの世界に戻れることはないように感じた。僕は深い不思議な感覚に包まれながら、そっとゲームセンターを後にした。



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