診察室は、いつも通りの静けさに包まれていた。しかし、目の前の患者は落ち着かない様子で、何かを抱え込んでいるようだった。決まった質問を終えた後、彼はふと話し始めた。
「先生、最近すごく怖い夢を見るんです…」
私は彼の言葉に興味を引かれ、優しく促した。
「どんな夢だったんですか?」
彼は少し考え込んでから、静かに話を始めた。
「夢の中で、僕は巨大な砂時計の中に閉じ込められているんです。自分が何故そこにいるのかはわからないんですけど、とにかく抜け出せない。そして、砂がゆっくりと上から落ちてきて、僕の周りにどんどん積もっていくんです。」
私は彼の話に集中しながら、続けて質問をした。
「その砂が落ちてくる時、どんな感情が湧いてきましたか?」
彼は少し息を吐き、眉をひそめた。
「最初は、ただ不安でした。『どうしてこんなところにいるんだろう』って。でも、砂がどんどん積もってくるにつれて、焦りと恐怖が増してきました。僕は砂の中で身動きが取れなくなって、砂が胸まで積もってきた時、もう逃げられないって気づいたんです。」
彼の声には恐怖がにじんでいた。私はその感情に寄り添いながら、さらに話を促した。
「その時、何か行動を起こそうとしましたか?例えば、砂から抜け出すために何かを試みたり。」
「もちろん、必死に抜け出そうとしました。でも、どれだけ手足を動かしても、砂は崩れて埋もれていくだけで、全然動けないんです。それどころか、もがけばもがくほど、砂がどんどん僕の体に覆いかぶさってくる感じで……それが本当に怖かった。」
彼はその時の恐怖を思い出し、体が震えているのを抑えようとしているようだった。
「砂に埋もれていく感覚は、どんな風に感じましたか?」
「冷たくて、重い感覚です。最初は、ただ砂に触れているだけなんですけど、時間が経つにつれてどんどん重くなってきて……胸の辺りまで来た時には、呼吸が苦しくなって、逃げようとしても体が動かない。それで、どんどん砂が迫ってきて、ついに顔にまで砂が覆いかぶさって……もう、目を閉じることしかできなかったんです。」
彼の話はますます緊迫感を帯びていた。私はその夢の中で感じた無力感を深く探ろうとした。
「その時、誰かが助けに来るような気配はありましたか?それとも、完全に一人だったんですか?」
「一人でした……誰もいないんです。周りにはただガラスの壁と、僕に迫ってくる砂しか見えなくて……完全に孤立している感覚が強かったです。助けを呼ぼうとしても、声が出なくて、ただ砂に飲み込まれていくのを感じるしかなかったんです。」
彼はその夢の孤独感を痛感しているようだった。私はその絶望感についてもう少し深掘りしてみた。
「夢の中で、最後にどうなったんですか?砂に埋もれてしまった瞬間に何か変化はありましたか?」
「はい……最後に、砂が完全に僕の顔を覆って、呼吸もできなくなって……もう終わりだと思った瞬間、ふと砂の流れが止まったんです。動けないまま、ただそこに埋もれている感覚が続いて……それで、次の瞬間に目が覚めました。」
彼はその時の感覚を思い出しながら、深く息を吐いた。
「目が覚めた後も、体がまだ砂に埋もれているような感覚が残っていて……すごく息苦しかったんです。」
私は彼の話を聞きながら、その夢が彼にどれほど強い恐怖を与えたのかを感じた。
「その砂時計の中に閉じ込められるというのは、もしかすると現実で感じているプレッシャーや、時間に追われている感覚を象徴しているのかもしれませんね。あなたが感じている不安や焦りが、夢の中で砂となって押し寄せてきたのかもしれません。」
彼は私の言葉を聞き、しばらく考え込んでいた。
「そうかもしれません……最近、仕事でも時間に追われていて、いつも何かに追い立てられている気がしていました。砂時計っていうのは、まさにその時間の象徴なんですね。でも、どうすればこの感覚から解放されるのか……それがわからなくて。」
彼はその夢の持つ意味について、何かに気づき始めているようだった。
診察室を出る彼の背中を見送りながら、私はその夢が彼の心の中にある不安や時間的プレッシャーを映し出していると感じた。巨大な砂時計の中で少しずつ埋もれていく感覚――それは、現実でも彼が感じている逃れられない重圧や焦りそのものかもしれない。
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