診察室はいつも通り静かな音楽が流れ、患者は少し緊張した表情で椅子に座っていた。決まった質問を終えたところで、彼がふと口を開いた。
「先生、最近ちょっと不思議な夢を見るんです。」
私は彼の話に興味を引き、優しく促した。
「どんな夢だったんですか?」
彼は少し考え込んでから、夢の内容を話し始めた。
「夢の中で、過去の自分と会話しているんです。最初は、幼児の自分でした。小さい僕が、目の前に座っていて、何か話しかけてくるんです。僕も普通に会話できてるんですが、不思議と全然怖くなくて、むしろ懐かしい感じがしました。」
彼の声には少しの驚きと懐かしさが混じっていた。私はさらに質問を投げかけた。
「幼児の自分と会話している時、どんなことを話していましたか?」
「うーん、子供らしい感じで、『おもちゃで遊ぼうよ』とか『一緒に外に行こう』って言ってくるんです。僕は少し大人ぶった感じで、『もうそういう年齢じゃないんだよ』なんて言い返してたんですけど……そのやり取りが、なんだか妙に楽しかったんですよね。」
彼はその場面を思い出し、少し笑顔を浮かべた。
「それで、幼児の自分との会話が終わったら、次は小学生の自分が出てきたんです。彼は、学校のことを話してきたんです。『先生が嫌だ』とか『友達と遊びたい』とか……まるで、昔の僕自身がそのまま目の前に現れた感じでした。」
私はその不思議な感覚を掘り下げようと思い、さらに尋ねた。
「小学生の自分と話している時、何か気づいたことや、感じたことはありましたか?」
「そうですね……あの頃、学校のことが嫌だったり、友達との関係で悩んだりしてたんだなって、すごくリアルに思い出しました。それを夢の中の僕が大人の視点で、『そんなことで悩んでたんだ』ってちょっと冷静に聞いている感じでしたね。でも、その悩みがすごく重要だったって、改めて感じました。」
彼の話を聞いて、私はその夢が彼の過去を振り返るためのものかもしれないと感じた。
「過去の自分と話すというのは、あなたの心の中で何かを再確認しようとしているのかもしれませんね。他にも過去の自分が出てきましたか?」
「はい、その後、高校生の自分が出てきました。制服を着たまま、僕に向かってこう言うんです。『将来が不安だ』って。進路や大学のこと、何を目指すべきかってことを、すごく真剣に悩んでいる高校生の僕でした。」
彼は少し息をつき、続けた。
「その時、僕は大人になった今の視点で、『大丈夫だよ。ちゃんと社会に出て仕事しているから』って言ってあげたんです。でも、高校生の僕は不安そうな顔をしていて、今の僕が何を言っても、その不安は消えないんだなって感じました。」
彼の言葉には、過去の自分に対する理解と共感が込められていた。私はその感覚に焦点を当て、さらに深く質問をした。
「高校生の自分と対話した時、何か特に印象に残ったことはありましたか?」
「やっぱり、あの頃の不安やプレッシャーをリアルに感じたことですね。未来に対する漠然とした不安……あの頃は何をどうすればいいのか全くわからなかった。でも、大人になった今でも、完全にその不安がなくなったわけじゃないんですよね。そう考えると、あの頃の自分と今の自分がそんなに違っていないんだなって気づきました。」
彼はその夢を振り返りながら、改めて自己を見つめ直しているようだった。
「過去の自分と対話することで、あなたが今抱えている悩みや不安が、どこかで繋がっているのかもしれませんね。あの頃の不安が、今のあなたに何かを伝えようとしているのかも。」
彼は私の言葉を聞き、しばらく考え込んでいた。
「確かに、あの夢を見てから、昔の自分を思い出すことが多くなりました。でも、昔の自分と話すことで、今の自分が少し楽になった気がします。あの頃の不安や悩みは、今振り返ると大したことないって思えるんですけど、実際にその時を生きていた自分には大きな問題だったんですよね。」
彼はその夢が持つ意味に気づき始めていたようだ。
診察室を後にする彼の背中を見送りながら、私はその夢が彼の内面的な成長を映し出していると感じた。過去の自分と対話することで、彼は自分自身を見つめ直し、今の自分との繋がりを感じていたのかもしれない。そして、それが彼の未来に向けた新たな一歩を支えるのかもしれない。
■おすすめ
マンガ無料立ち読み
1冊115円のDMMコミックレンタル!
人気の漫画が32000冊以上読み放題【スキマ】
ロリポップ!
ムームーサーバー
新作続々追加!オーディオブック聴くなら - audiobook.jp
ページをめくってゾッとする 1分で読める怖い話 [ 池田書店編集部 ] 価格:1078円 |