診察室にはいつもの穏やかな空気が流れていたが、今日の患者は明らかに不安を抱えている様子だった。定期的な診察の質問を終えた後、彼はためらいながらも口を開いた。
「先生、最近ちょっと変な体験をしているんです。夢なのか現実なのか、よくわからなくて……。」
私は彼の話に興味を引き、静かに促した。
「どんな体験だったんですか?」
彼は深呼吸をしてから、話を始めた。
「夜、ベッドに入って眠っている時に、突然体が動かなくなるんです。これ、金縛りだってすぐに気づいたんですけど、いつもと違っていて……最初は普通の金縛りかなって思ったんですけど、そのうち、何かがおかしいって感じ始めました。」
彼はその時の感覚を思い出し、少し顔を強張らせた。
「金縛りにあった時、どんなことが起こり始めたんですか?」
「体は全く動かなくて、声も出せない。でも、目は開いていて、部屋の中が見えるんです。最初は何もないただの部屋だったんですが……視界の端に、白い影みたいなものが見えたんです。僕はその時、これが夢なのか現実なのか、全然区別がつかなくなっていました。」
彼は少し震えるような声で続けた。
「白い影が出てきたんですね。その時、どんな感情が湧いてきましたか?」
「恐怖です。ものすごく怖くて、逃げたかったけど、体は全く動かないし、声も出せない。白い影がどんどん近づいてくるのが見えて、心臓がバクバクしているのに、それでも動けないんです。影が近づくたびに、呼吸が苦しくなってきて……もう限界だって思いました。」
彼の話が進むにつれ、その恐怖がどれほど強烈だったかが伝わってきた。私はその体験をさらに深く掘り下げるために質問を続けた。
「その白い影は、どんな形をしていたんですか?人のようでしたか?」
「最初はぼんやりとした形だったんですが、近づくにつれて、人のような姿に見えました。だけど、顔ははっきりしなくて、ただ白い霧のようなものがまとわりついている感じでした。それが僕のすぐ隣に来て……じっと僕を見下ろしているような感覚があったんです。」
彼の声が震え、恐怖が再び蘇ってきているのが明らかだった。
「その時、何か言葉をかけられたり、声を聞いたりしましたか?」
「声は聞こえなかったんです。ただ、その影が僕をじっと見ているだけで、何も言わない。でも、その無言の視線がすごく怖くて、まるで僕の心の中を見透かしているような感じがしました。僕は何度も『夢だ』って自分に言い聞かせようとしたんですけど、それが本当に夢なのか、現実なのかわからなくなって……」
彼はその時の混乱と恐怖を強く感じていたようだった。
「その体験が終わったのは、どういうタイミングでしたか?」
「白い影が僕の顔に近づいてきた時、もう本当に耐えられなくなって……その瞬間、突然体が動くようになって目が覚めました。でも、目が覚めた瞬間も、まだその影がそこにいるような感覚が残っていて、しばらく部屋を見回して確認したんです。もちろん誰もいなかったんですが、あの影が現実にいたんじゃないかって、ずっと頭の中に残っているんです。」
彼の話は、現実と夢の境界が曖昧になるような不安を感じさせた。私はその体験が彼にどれほど強い影響を与えているかを理解し、さらに問いかけた。
「その体験が現実か夢か、区別がつかなくなるというのは、何か大きなストレスや不安を象徴している可能性があります。最近、何か気にかかることや、心配事はありませんか?」
彼は少し考え込み、静かに答えた。
「仕事のプレッシャーがすごくて、毎日追い詰められている感じがあります。寝る時も、仕事のことが頭から離れなくて……その影が、僕の心の中にある不安を表しているのかもしれませんね。体は動かないし、逃げられない……それが現実でも同じように感じているのかも。」
彼はその夢を通して、自分のストレスやプレッシャーと向き合っていることに気づき始めたようだった。
診察室を後にする彼の背中を見送りながら、私はその夢が彼の深層心理に何を映し出しているのかを考え続けた。金縛りと、現れる白い影――それは彼が現実で感じているストレスや恐怖を象徴しているのかもしれない。彼がその影から解放され、再び安らかな眠りを取り戻す日は、すぐに訪れるのだろうか。
■おすすめ
マンガ無料立ち読み
1冊115円のDMMコミックレンタル!
人気の漫画が32000冊以上読み放題【スキマ】
ロリポップ!
ムームーサーバー
新作続々追加!オーディオブック聴くなら - audiobook.jp
ページをめくってゾッとする 1分で読める怖い話 [ 池田書店編集部 ] 価格:1078円 |