ある日、友人と一緒にショッピングへ出かけた。特に何かを買う予定もなかったが、ただブラブラと店を見て回りながら、時間を潰していた。そんな時、ショッピングモールの外で偶然、骨董市が開かれているのを見つけた。
骨董品にはあまり興味がなかったが、友人が「ちょっと見てみよう」と誘うので、軽い気持ちで立ち寄ることにした。様々な古びた品々が並んでおり、どこか不思議な雰囲気が漂っていた。古い家具や器、着物などが並ぶ中、一体の日本人形が目に留まった。
その人形は、真っ白な顔に艶やかな黒髪が伸び、真紅の着物を着ていた。顔立ちは美しく、少し儚げな印象を与えた。その瞳は大きく、まるでこちらを見つめ返しているかのようなリアルさがあった。
「…なんか引かれるな」
友人も「お前、こういうのに興味あったっけ?」と不思議そうに見ていたが、なぜかその人形を手に取ると、手放せなくなってしまった。
値段もそこまで高くなく、骨董屋の店主も「良い品ですよ」とすすめてきたので、ついその場の勢いで購入してしまった。
家に帰り、その人形をリビングの棚に飾った。美しい人形だったし、インテリアとしても悪くないと思った。娘のような表情に、どこか落ち着きを感じたのだ。
しかし、その夜から不気味なことが起こり始めた。
夜中、寝ようとしてベッドに入っていた時、ふと人形のことを思い出した。部屋の中は静かで、遠くからかすかな風の音が聞こえるだけだった。だが、どこかで小さな笑い声が聞こえる気がした。
「…気のせいだよな」
自分にそう言い聞かせて眠ろうとしたが、笑い声は耳に残っているようで、なかなか寝付けなかった。
次の日、何かが気になって、再びリビングの棚に飾ってある人形を見た。最初は変わった様子はないように思えたが、よくよく見ると、人形の目が微妙に動いているように感じた。
「そんなはずないよな…」
僕はそう思いながら、じっと人形の目を見つめ続けた。だが、その瞳は確かにこちらを追いかけているかのように見える。一瞬、目が合ったような気さえして、全身に寒気が走った。もちろん、人形が実際に動いているわけではない。だが、その瞳は、どこか不気味な存在感を放っていた。
それから数日が経ち、次第に僕はこの人形が気になって仕方なくなった。夜中になると、人形が微かに笑っているような気配を感じることがあった。確実な証拠があるわけではないが、ベッドに入るたびに、どこかでその微笑みが耳に残るような感覚がする。
さらに、ある朝、ふと気づいたのは、人形の髪が少し長くなっているような気がすることだった。最初に買った時よりも、わずかだが、髪の毛が伸びているように見えるのだ。
「いや、そんなわけない。これはただの人形だ」
自分に言い聞かせたが、どうしてもその感覚が拭えなかった。リビングに飾っている人形を毎日見るたびに、どこか違和感を覚える。動いているように見える目、夜中に感じる笑い声、そして少しずつ伸びているように感じる髪――すべてが現実かどうかさえわからなくなってきた。
友人にも相談したが、「それ、気にしすぎだろ」と軽く流された。しかし、僕の中では不安が日に日に増していった。
結局、その人形を家に置いておくのが耐えられなくなり、僕はその人形を骨董品の専門店に引き取ってもらうことにした。店主に渡した時、彼は特に気にする様子もなく、ただの古い人形として受け取ってくれた。
その後、不気味な気配や笑い声が聞こえることはなくなり、日常が戻ってきた。しかし、今でも時折、あの人形の目が脳裏に浮かぶことがある。動いたわけではない、悪さをしたわけでもない。ただそこにあるだけで、あれほどの恐怖を感じたのは何だったのだろうか。
今となっては、その理由はわからないままだが、もう二度と骨董市で人形を買うことはないだろう。
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