私は、夜間警備員として働いているが、最近担当になった老朽化が激しい小さなオフィスビルでの巡回が、正直言ってあまり好きではない。ビルは古く、入居者も少なく、昼間でも何となく薄気味悪い雰囲気が漂っている。空室のフロアが多く、廃墟のような静けさが建物全体を覆っているせいかもしれない。
「このビル、近いうちに取り壊されるんじゃないか…」
私はいつもそう思いながら、そのビルを見回っていた。
ある夜、私はいつものように巡回をしていた。ビルは7階建てだが、入居しているのは2階と5階に数社だけ。あとはすべて空室だ。特に6階と7階は完全に空いており、昼間でも誰も足を踏み入れることはない。
巡回中、私は1階でエレベーターを呼び、2階を確認してから5階に向かうつもりだった。しかし、その夜、エレベーターに異変が起きた。
エレベーターが1階に到着し、私は何気なく中に乗り込んだ。2階を押そうとしたところ、6階のボタンが光っていた。
「…6階?」
エレベーターは6階に向かって上がって、やがて扉が開いた。
当然、誰も6階にいるはずがない。6階は長い間空室のままだし、誰もエレベーターを呼ぶことなどありえない。ドアがゆっくりと開き、冷たい空気が流れ込んできた。私はその場に立ち尽くした。
6階は真っ暗で、蛍光灯が何本も切れているため、電気が点いている場所はほとんどない。廊下の奥は闇に包まれており、誰かがそこにいるような気がしてならなかった。
「誰もいないよな…?」
自分にそう言い聞かせて、早く1階に戻りたい気持ちを押し殺しながら、エレベーターの中にとどまった。やがてドアが閉まり、エレベーターは再び動き出したが、その冷たい不安感は消えなかった。
その後も、巡回中に奇妙なことが続いた。
翌晩、私は5階で見回りを終え、1階に戻ろうとしていた。エレベーターのボタンを押そうとすると、今度は7階のボタンが光っていた。7階も6階と同じく長い間空室で、誰もいないフロアだ。私は恐る恐る7階に向かうと、またしても無人のエレベーターが、ゆっくりとドアを開けた。
「…誰もいない」
当然のことだが、それでも背筋が冷たくなる。まるでエレベーター自体が意図的に止まったかのように感じた。7階も、6階と同じように暗く、人気のない廊下が広がっている。私はそのまま何とかエレベーターの中に戻り、1階に降りるボタンを押した。
ところが、再び6階でエレベーターが止まった。
「どうなってるんだ…?」
エレベーターは私の意志を無視しているかのように、無人の階で止まる。それでも動揺を押し殺し、再び1階のボタンを押した。今度こそスムーズに降りるかと思ったが、エレベーターは再び登り始め7階で停止した。私はその場で完全に固まり、冷や汗が流れた。
何かが、このエレベーターを操作しているような感覚。空室のフロアで止まるたびに、何者かが見えない手でボタンを押しているかのような不気味さが、エレベーターの中を覆っていた。
翌日、私は先輩の警備員にこのことを話してみた。先輩は黙って聞いていたが、やがて静かにこう言った。
「そのビルな、俺も昔何度か夜勤やってたけど、同じことがあったよ。6階とか7階とか、誰もいないのにエレベーターが止まるんだ。あそこ、ちょっと妙だよな。」
先輩の言葉を聞いて、私はゾッとした。やはり私だけの体験ではなかったのだ。
今もそのビルでの巡回は続いているが、エレベーターに乗るたびに、無人のフロアで止まるかもしれないという恐怖が頭をよぎる。何がエレベーターを動かしているのか、誰がその階にいるのか。答えはわからないまま、今夜も見回りを続けている。
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