私が働いているビルは、老朽化が進んだ小さなオフィスビルだ。廊下のタイルはところどころ剥がれ、壁もひび割れだらけ。入居者は少なく、ほとんどのフロアは空室で、ビル全体がまるで廃墟のような雰囲気を漂わせている。昼間でも薄暗く、不気味な空気が漂う場所だ。
ここに入っている会社も、普通とは言い難い。奇妙な社名や、不気味な雰囲気を放つ企業ばかりだ。だが、仕事なので私はその怪しいビルの夜間警備を続けている。
ある日、新しい会社がそのビルに入居してきた。会社名は、いかにも怪しげで、正直「また変な会社か…」という印象を抱いた。しかし、しばらくしてその会社から深夜の見回り依頼が届いた。見回りの依頼をする会社は意外としっかりしている場合が多く、今回も「案外まともな会社かもしれない」と思っていた。
その考えが、甘かったと気づくのは、オフィスに入った瞬間だった。
その夜、私はその会社が入居するフロアに向かい、ドアを解錠した。中に入ると、オフィスとは思えないほど異様な雰囲気が漂っていた。デスクやパソコンなどはなく、代わりにガラスケースや奇妙な装飾品が並んでいた。
最初に目に飛び込んできたのは、ガラスケースの中にいる巨大なイモムシだった。今まで見たこともないほどの大きさで、体長は30センチ以上。太くて黒と緑のまだら模様が光沢を放ち、見ているだけでゾッとする。隣には奇妙な哺乳類が置かれていた。犬くらいの大きさだが、体は不自然に伸びた形をしており、目は異常に大きい。まるで、こちらをじっと観察しているような感じだった。
「これ…本当に会社なのか?」
私は不安に駆られながらも、見回りを進めた。
それからというもの、私は毎晩の見回りで、このイモムシと哺乳類を観察することが日課になっていった。最初は気味が悪かったが、日に日にこの2匹が成長していくのを感じた。
まず、イモムシは次第に体が膨らみ始め、ある日、ついに蛹(さなぎ)の状態になった。ガラスケースの中で硬い殻に覆われ、動かなくなったが、その殻の中で何かが蠢いているような感覚が伝わってきた。何が出てくるのか想像もできず、私はただ成り行きを見守るしかなかった。
一方で、哺乳類の方も変化していた。最初は小さな突起が背中にあっただけだったが、日に日にその突起が大きくなり、まるで翼のように伸びていった。体もさらに不気味に変形し、足が異常に長くなり、顔つきも鋭くなっていく。目は以前よりも強烈な光を放ち、まるで知性を持っているかのような視線で私を見つめてきた。
「これ…進化している…?」
私は見回りのたびにその成長を確認し、異様な進化を目の当たりにしていることに恐怖を覚え始めた。これが自然のものではないことは明らかだった。
そして、ある夜、ついにイモムシの蛹が孵化した。
その日、ガラスケースの中で蛹が大きく割れ、中から現れたのは恐ろしい姿をした生物だった。羽のようなものが生え、全体が奇妙に光っている。目は赤く光り、鋭い口吻が覗いていた。体全体は異常に伸び、もはやイモムシの姿は完全に消え去っていた。まるで悪夢の中から出てきたかのようなその姿を、私は恐怖で震えながら見つめた。
同時に、哺乳類も完全に別の形態へと変貌を遂げていた。かつての姿はどこにもなく、鋭い爪と翼を持つ生物へと変わり果てていた。体はしなやかに動き、まるで狩りをする準備をしているかのような構えで立ち尽くしていた。
その時、私は全身に寒気が走り、今すぐこの場を離れなければならないという直感的な恐怖に駆られた。
それ以来、私はその会社の見回りが恐ろしくなった。あのイモムシと哺乳類が何だったのか、そしてあの会社が一体何をしているのか、誰にもわからない。だが、私は確かに見た。自然の進化を超越した異様な生命体の誕生を。
あのオフィスに存在するものが、この世界のものではないという確信だけが、今も私の頭から離れない。
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