Hさんは、古い屋敷に引っ越してきました。その屋敷は、Hさんの祖父母が住んでいた場所で、築何十年も経った木造の大きな家でした。祖父母が亡くなってからは長い間誰も住んでおらず、静かに時が流れていましたが、Hさんが引っ越してきたのをきっかけに再び人の気配が戻ることになりました。
広々とした敷地には大きな庭があり、木々が風に揺れる音が穏やかに響いています。屋敷の中は古びてはいるものの、どこか懐かしい香りが漂い、Hさんは子供の頃、祖父母の家に遊びに来た思い出を思い出していました。特に、優しく迎えてくれた祖母の笑顔が浮かびます。彼女はHさんにとって大切な存在であり、その優しい声が今でも記憶に鮮明に残っています。
引っ越しの片付けが終わり、Hさんは新しい生活を始めました。古い家での暮らしは少し不便なところもありましたが、静かな環境に心が癒され、心地よく過ごしていました。しかし、ある夜、奇妙な出来事が起こりました。
その夜、Hさんはリビングでテレビを見ながらくつろいでいました。古い屋敷は静寂に包まれ、風が窓を揺らす音がどこか心地よく感じられました。時刻は深夜1時を回っており、そろそろ寝ようかと立ち上がったその瞬間――
「ピンポーン」
突然、インターホンが鳴り響きました。
Hさんは驚きました。こんな時間に誰が訪ねてくるのか? この屋敷は人里離れており、周囲には家も少ないため、深夜の来訪者など考えにくい状況です。半信半疑で、Hさんはインターホンのモニターを確認しました。
しかし、モニターに映し出されたのは、ただの暗い玄関の風景。誰も映っていません。
「いたずらか…?」
不思議に思いながらも、Hさんは玄関に向かい、慎重にドアを開けました。外には風が吹き、木々の影が揺れているだけで、誰の姿も見当たりませんでした。再びドアを閉め、寝室に向かおうとしたその時です。
「Hちゃん、どうして出てこないの?」
――それは、亡くなった祖母の声でした。
背筋が凍りつくのを感じました。確かに、インターホンのスピーカー越しに聞こえてきたのは、幼い頃に何度も聞いた祖母の優しい声だったのです。Hさんは一瞬、動くことができませんでした。頭の中は混乱し、心臓の鼓動が速くなります。
「おばあちゃん…?」
信じられない思いで、もう一度インターホンのモニターを確認しました。だが、そこには相変わらず誰も映っていません。しかし、再びスピーカーから祖母の声が聞こえてきます。
「Hちゃん、早くおいで…」
その声は、まるでどこか遠い場所から、過去の記憶を引きずり出すかのように響いていました。Hさんは、目の前の現実が信じられませんでした。祖母は数年前に亡くなっているはずです。そんなはずはないのに、インターホンから確かに祖母の声が聞こえてくるのです。
混乱したまま、Hさんは玄関へと向かいました。ゆっくりとドアを開けると、外にはやはり誰もいません。しかし、足元には一枚の古びた写真が落ちていました。拾い上げてみると、それは幼い頃に祖母と一緒に撮った思い出の写真でした。Hさんが祖母と手をつないで微笑んでいるその姿が映っていました。
「どうして、こんなところに…?」
その瞬間、Hさんはハッとしました。この写真は、確かに祖母が亡くなった後、どこかにしまい込んでいたはずのもの。それがなぜ、今ここに落ちているのか。まるで、祖母が何かを伝えようとしているかのようでした。
その夜、インターホンはそれ以上鳴ることはありませんでしたが、Hさんの心には祖母の声が鮮明に残りました。祖母が今でもどこかで見守っているのだろうか――そう思わずにはいられませんでした。
それ以降、Hさんはこの家で不思議な体験をすることはなくなりましたが、あの夜、インターホンから聞こえてきた祖母の声と、玄関に落ちていた写真は、彼女の心に強く残り続けています。時折、その写真を手に取ると、どこかで祖母が自分を見守ってくれているように感じるのです。
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