小さい頃、近所に住んでいたおじいさんから聞いた不思議なお話がありました。おじいさんは物静かで温厚な人柄でしたが、時折、夜更けに語ってくれる昔の話には、いつも少し不気味な雰囲気が漂っていました。その中でも、特に記憶に残っているのは、おじいさんがまだ子供の頃に体験した奇妙な出来事の話です。
おじいさんの体験
おじいさんが小学生だった頃、夏休みに親戚の家へ泊まりに行くことがありました。その家はかなり古く、木造の造りで、床板が軋む音がどこか懐かしくもあり、不気味でもありました。親戚の家は山奥にあり、夜になるとあたり一面は真っ暗になり、虫の音が響く以外はほとんど何も聞こえませんでした。そんな静かな夜、深夜に突然、不思議な足音が聞こえてきたのです。
「コツ…コツ…」
規則正しい足音が、遠くからだんだん近づいてくるのを感じたおじいさんは、その音に違和感を覚えました。というのも、その家は歩くたびに「ギシ…ギシ…」と木の軋む音がするはずなのに、足音だけが「コツ…コツ…」と響いていたのです。まるで、床板を踏まずに、硬い何かを打つような音でした。
おじいさんは不思議に思いながらも、その足音に引き込まれるように耳を澄ましました。最初は遠くから、やがて家の中に入り、廊下を進んでくる足音。子供心に怖さが込み上げてきましたが、足音を確認しようと体を起こそうとしたその瞬間、全身が動かなくなりました。そうです、金縛りにかかってしまったのです。何とかして動こうと力を入れようとしても、まるで自分の体が自分のものではないかのように、びくとも動きません。
「コツ…コツ…」
足音はさらに近づき、ついにおじいさんが寝ている部屋のすぐ外までやってきました。息をひそめてその音を聞いていると、ふすまの向こう側で足音が止まったのです。おじいさんの心臓はバクバクと音を立て、体は金縛りに囚われたまま。しかし、次にふすまがすっと静かに開いた音がしました。恐怖に凍りついたおじいさんの目の前には、ぼんやりと白い人影が立っていました。真っ暗な部屋の中で、その白い人影だけが異様に浮かび上がって見えます。
その姿は、はっきりとした形をしていないものの、確かに「人」の形をしていました。背は高く、細長いシルエット。顔の詳細は見えませんが、その無表情さがかえって恐ろしく感じられました。おじいさんは叫びたいのに声が出ず、体も動かせないまま、ただその白い影を見つめているしかありませんでした。
どれほどの時間が経ったのかは分かりませんが、ふと気づくと、白い影は消えていました。そして、あの奇妙な足音もいつの間にか聞こえなくなっていました。気づけば、窓からは朝日が差し込んでおり、鳥のさえずりが聞こえていました。
「夢だったのか?」とおじいさんはそのとき思ったそうですが、体にはまだ金縛りの余韻が残っており、あの白い人影の不気味さは鮮明に心に刻まれていたと言います。朝食の席で、親戚に「昨晩、変な足音が聞こえたんだけど」と尋ねてみましたが、誰もそんな音は聞いていないと言います。親戚たちは「疲れて夢でも見たんだろう」と笑い飛ばしましたが、おじいさんにとってはそれが現実であったことを強く感じていたそうです。
その後も親戚の家を訪れる機会は何度かあったものの、あの足音を再び聞くことはなかったといいます。ただ、一度だけ、近所の古老にあの家のことを話した際、「昔、その家には不幸があってな…」と曖昧な答えが返ってきたことがあったそうです。古老はそれ以上話すことはありませんでしたが、おじいさんはその時初めて、あの夜見た白い影がただの夢や幻ではなかったのだろうと確信したといいます。
今でも、その話を思い出すたびに、あの不気味な足音と白い影が頭をよぎります。おじいさんは最後に、こう付け加えていました。「あれは一体なんだったのか、今でもわからん。ただ、あの家には何かがいたんだと思うよ」と。
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