小さな村の外れに住んでいた老人から聞いた、奇妙で少し不気味な話があります。老人は、若い頃からこの村に住み、狩りや漁を生業としていました。彼が語ったのは、村の山奥にある、ほとんど人が訪れない湖での体験でした。
湖での夜
老人がその湖へ行くようになったのは、魚釣りが趣味で、人がほとんど来ないその湖が特に気に入っていたからです。ある日、彼は日中の仕事を終え、夜釣りを楽しもうと湖へ向かいました。湖は山々に囲まれ、月明かりが水面に映るだけの静寂な場所でした。湖面は風もなく、まるで鏡のように静かで、心が安らぐ場所だったと言います。
しかし、その夜は少し様子が違っていました。湖に到着してすぐ、妙な静けさに気づきました。普段なら聞こえるはずの鳥や虫の声が、まったく聞こえなかったのです。「おかしいな」と思いながらも、老人は釣りを始めました。しばらくして、ふと視線を上げると、湖の中央に何かが浮かんでいるのが目に入りました。
「何だろう…?」
月明かりの下、ぼんやりとした影が水面に漂っています。最初は魚か何かだと思ったそうですが、その影は次第に大きくなり、まるで人の形をしているように見えました。老人は気になり、もっと近づいて確認しようとしましたが、体が急に重く感じ、足がすくんで動けなくなりました。
影はゆっくりと湖の中央から近づいてきます。老人は恐怖に駆られ、なんとかその場を離れようとしましたが、体が思うように動きません。まるでその影に引き寄せられているかのようでした。
影が近づくにつれ、それが人の形をした何かであることがはっきりしてきました。背は高く、全身が黒い靄のように覆われていて、顔は見えませんでしたが、その姿は確かに「人」に見えました。そして、その人影は湖から這い上がるかのように、老人が立っている岸辺に向かってゆっくりと進んできたのです。
消えた影
「もうだめだ…」と思ったその瞬間、突然、風が吹き始め、湖の表面に波紋が広がりました。老人はその風に引き戻されたかのように、体の自由を取り戻しました。慌ててその場を立ち去り、家に戻った時には全身が汗でびっしょりでした。
翌朝、冷静になった老人は、「昨晩の出来事は疲れからくる幻覚だったのかもしれない」と自分に言い聞かせました。しかし、その湖には再び行こうという気持ちにはなれず、二度とその場所を訪れることはなかったそうです。
その後も、老人はその湖のことを思い出すたびに、あの夜見た影のことが頭を離れなかったと言います。何かが湖に存在していたのか、それともただの幻だったのか――真実は未だに分からないままです。
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