それは、友人の提案で行くことになった。地元の山奥に、今では廃墟と化した豪邸があるという。かつては有名な資産家が住んでいたが、ある日突然、一家全員が姿を消し、家も放置され、そのまま時が止まったと言われている。以来、噂では「豪邸の奥に何かがいる」とか、「夜中に行くと帰ってこられない」など、不気味な話が囁かれていた。
その夜、私たちは車でその豪邸へ向かうことになった。
夜9時過ぎ、山道を抜けると、木々に覆われたその豪邸が姿を現した。巨大な門が錆びつき、今にも崩れそうなほど朽ち果てている。門の先に見えるのは、かつての栄華を物語るかのような、豪華な三階建ての洋館だ。だが、長年放置されてきたせいで、壁は剥がれ、窓は割れ、蔦が絡みついていた。
「すげぇ…本当にこんなところがあったんだな」
「でも、なんかやばくないか?」
友人たちもその異様な雰囲気に飲まれ、すでに後悔の色が見えていた。だが、ここまで来た以上、引き返すわけにはいかない。懐中電灯を手に、私たちは豪邸の中へ足を踏み入れた。
玄関を開けた瞬間、湿った空気が一気に流れ込んできた。廊下には埃が積もり、家具は薄い布で覆われている。大きなシャンデリアが天井からぶら下がっているが、その光を取り戻すことは永遠にないだろう。
「すげぇ広いな…」
廊下を進むと、巨大なリビングが現れた。高い天井に、大理石の床。そして、豪華な調度品が所々に散らばっているが、その全てが廃墟特有の静けさに包まれていた。
だが、不気味だったのはこの豪邸がまるで昨日まで使われていたかのような雰囲気を残していることだった。テーブルの上には古い花瓶が置かれ、椅子もまるで誰かが今まで座っていたかのように整然と並んでいる。
「おかしいな…廃墟って、もっと荒れてるもんじゃないか?」
その時、廊下の奥から、誰かが動く気配がした。
「今、聞こえたか?」
全員が息を飲み、懐中電灯をそちらに向けた。誰かが、廊下の奥を歩いていたような気がする。しかし、光が届く範囲には何も映らない。
「ただの風の音だろ?」
「いや、なんか変だ…」
私たちは少しずつ進み、奥の部屋へ向かうことにした。重い扉を開けると、そこは広い書斎だった。壁一面に古い本が並び、机の上には手帳やペンが散乱している。机の奥にある窓のガラスは割れており、外からの冷たい風が静かに吹き込んできた。
ふと、私が床の隅に違和感を覚えた。
そこには、埃の積もった床に、誰かの足跡がついていたのだ。
「おい、これ…誰のだよ?」
友人たちもその足跡に気づき、息を呑んだ。私たちは、足跡が続く先を辿っていった。足跡は、書斎の奥の壁の前で止まっている。
「ここ、何かあるのか…?」
そう言いながら、私は壁を調べてみた。すると、古い扉が隠されているのを発見した。
「マジか、こんなところに…」
扉をゆっくり開けると、中は真っ暗な地下への階段だった。そこから漂ってくる空気はひどく冷たく、まるでそこに何かが潜んでいるかのような感覚を覚えた。
「やめようぜ。これ、ヤバいやつだって…」
一人の友人がそう言ったが、もう引き返せる雰囲気ではなかった。私たちは震えながらも、階段を降りることにした。地下には、薄暗い廊下が続いており、壁には古びたランプがかかっている。
そして、廊下の突き当たりに、一枚の扉が見えた。
「開けてみるか…?」
私たちは全員で頷き、扉をゆっくりと開けた。その瞬間、冷たい風が顔に吹き付け、中にあるものを目にした。
そこには――
豪華なダイニングテーブルが置かれ、椅子にはそれぞれ何者かが座っている。
全ての椅子にマネキンのような人形が座り、奇妙な笑顔を浮かべてこちらを見つめていた。
「うわ、何だよこれ…!」
全員がパニックになり、その場から逃げ出した。廊下を駆け上がり、もとのリビングまで戻る。後ろから何かの気配を感じながら、私たちは全力で豪邸の外へと飛び出した。
外に出た瞬間、全員が息を切らして座り込んだ。背後の豪邸を振り返ると、窓の奥に無数の目がこちらをじっと見つめていたような気がした。
「もう二度と来ない…」
そう呟きながら、私たちは豪邸を後にした。だが、今でも時々思い出す。あの地下のダイニングルームに座っていた人形たち――あれは本当に人形だったのか? それとも、あの豪邸の住人たちがまだそこに残っていたのだろうか。
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