それは、友人たちと地元の心霊スポットに行った時の話だ。目的地は、廃墟と化した豪邸。山奥にひっそりと佇むその家は、地元では有名な場所で、「住人たちの霊が今でもこの家を見守っている」と噂されていた。
豪華な造りの家が突然放棄されて何年も経つという。資産家の一家が住んでいたという話だが、その後、なぜか突然全員が家を出て行き、それ以来誰も住んでいない。その不自然さと不気味さから、今では肝試しの名所になっている。
夜9時、私たちはその豪邸にたどり着いた。門の前で見ると、それは異様なほど立派な洋館だったが、壁には蔦が絡まり、窓は割れ、時間の流れがそのまま凍りついたような雰囲気を醸し出していた。
「本当に入るのかよ…」
「ここで帰るのか?ヘタレだな!」
友人たちは無理やり笑いながらも、全員がどこか不安そうな顔をしていた。私も不安だったが、ここまで来た以上、引き返すわけにはいかない。懐中電灯を照らしながら、私たちは豪邸の玄関を恐る恐る押し開けた。
扉を開けると、冷たい空気が私たちを迎えた。玄関ホールには、埃をかぶった古い家具が並び、どこか急いで放置されたような気配が漂っている。壁には家族の写真が何枚も飾られており、昔はここに人の生活があったことを感じさせた。
「うわ、家族写真かよ…こんなのあると余計に怖いな」
友人がそう言いながら、壁に飾られた写真に懐中電灯を当てた。そこには一家全員が笑顔で並んでいる写真が写っていたが、その笑顔がどこか不自然に見え、背筋が寒くなった。
私たちはさらに探索を進め、大きな応接間に入った。そこには埃まみれのソファと、古い暖炉があった。テーブルの上には、まだ形が残ったティーカップや古びた花瓶が置かれており、まるでそのままの時間が閉じ込められたかのようだった。
「なんで、こんなに綺麗に残ってんだ?」
「マジでここ、誰か住んでるんじゃないか…?」
その時――
カタン…
「今の音、何だ?」
私たちは全員で一斉に振り向いた。音のした方を見ると、そこには一枚の写真立てが倒れていた。
「え、倒れた…?」
友人たちは驚き、急いで写真立ての方に駆け寄った。私たちはその写真を拾い上げ、懐中電灯で照らした。そこには――
さっき玄関に飾られていた家族の写真と同じ人物たちが写っていた。
しかし、何かがおかしかった。
玄関で見た時は全員が笑顔だったはずなのに、今この写真に写っている家族の表情は、無表情でこちらをじっと見つめているのだ。
「…これ、おかしくないか?」
「玄関のやつ、笑ってたよな…?」
全員が言葉を失った。その時、どこかでまたカタンと音がした。振り向くと、廊下の奥にある別の部屋のドアが、勝手に開いていた。
「おい、もうやめようぜ…」
誰かが弱々しくそう呟いたが、足がすくんで動けない。廊下の奥からは、かすかに誰かが歩くような気配が漂っていた。そして、ふと背後の壁を見上げると――
さっき玄関で見た家族の写真が、同じ笑顔で飾られていた。
「なんか、ヤバい…気味悪い、早く出よう!」
私たちは全力で応接間を飛び出し、玄関に向かって走った。廊下のあちこちから、微かな足音や物音が聞こえ、全員がパニックになった。
ようやく玄関までたどり着き、扉を開けて外に飛び出した。冷たい夜風が私たちを包み込み、ようやく現実に引き戻された感覚がした。
「…ここ、本当に何かいるぞ」
全員が顔を見合わせ、言葉を失った。背後の豪邸を振り返ると、玄関の窓の向こうに何かの影が見えた。よく見ると、それは家族の写真に写っていた人物たちのように見えた――全員がこちらをじっと見ている。
「もう二度と来るか・・・」
誰かがそう呟き、私たちは車に乗り込み、その場を後にした。
それ以来、私はあの豪邸に近づいていない。だが、今でも思い出す――あの写真立てが倒れた瞬間と、笑顔の家族写真。
あれは一体何だったのか――そして、なぜあの写真の家族が、私たちを見送っていたのか。
今もその答えはわからない。だが、ただ一つだけ確かなのは、あの家には今も誰かが住んでいるということだ。
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