友人たちと一緒に、地元で有名な心霊スポットの廃墟の豪邸へ行くことになった。長い間放置され、人が住まなくなったその洋館には、「そこに入ると不思議な現象に遭遇する」とか、「写真を撮ると、何かが写り込む」といった噂が絶えない。
正直、私は気が進まなかったが、「肝試しだし、どうせ何も起こらないって」と友人たちに押し切られ、結局ついて行くことになった。
夜の豪邸は異様な雰囲気を放っていた。壁はひび割れ、割れた窓から冷たい風が吹き込み、蔦が絡みついた大きな扉が私たちを迎えた。昼間の喧騒が嘘のように、周囲は静まり返っていて、虫の鳴き声さえも聞こえない。
「マジでこんな場所あったんだな」
「よし、行こうぜ!」
玄関扉は重かったが、ギギギ…と音を立てて開いた。中に足を踏み入れると、埃と湿気の匂いが鼻をつき、誰も使わなくなった家独特の重苦しい空気に包まれた。
私たちは懐中電灯を照らしながら、奥へ進んでいった。広いリビングルームに入ると、そこには豪華な家具や暖炉が残っていた。朽ち果てた調度品が並んでいるが、妙にきれいに整えられているように見えた。まるで、住人が今でもここにいるかのような不気味な雰囲気だ。
そして――壁際に置かれた古びた写真立てが、私たちの目に留まった。
「なんだこれ…?」
友人が懐中電灯で照らすと、そこには見知らぬ家族の写真が収められていた。父親、母親、そして幼い子供たちが並んで微笑んでいる――だが、その笑顔がどこかぎこちなく、見ているだけで不安を感じた。
「この家族が、ここの住人だったのかな?」
私は写真を手に取ろうとしたが、その瞬間――
パシャッ
友人の一人がスマホで写真を撮った。
「うわっ、撮るなよ…」
「大丈夫だって、記念だろ?」
しかし、その直後から、妙な気配が漂い始めた。寒気が背筋を走り、誰もいないはずの廊下から、何かがこちらを見ているような感覚に襲われた。
私たちは不安を抱えたまま豪邸の探索を続けた。やがて見つけたのは、古い書斎だった。机の上には埃まみれの手帳が開かれ、窓の外には暗い庭が広がっている。
その時、先ほど写真を撮った友人がスマホを取り出し、撮った写真を確認し始めた。
「おい…これ、何だ?」
彼の声が震えていた。画面を覗き込むと――先ほど撮った家族の写真の中に、見たことのない人物が写り込んでいたのだ。
最初は、普通の家族が微笑んでいるだけだったはず。しかし、スマホに映った写真の中には、その後ろに白い服を着た女性が立っていた。彼女は無表情で、じっとこちらを見つめている。
「なにこれ…誰だよ?」
「いや、そんなの最初の写真にはいなかっただろ!?」
全員がパニックになった。あの写真立ての中には、あの女性は写っていなかったのに、なぜスマホには別の誰かが映っているのか。
私たちは恐怖に駆られ、一刻も早くその家から出たかった。急いで出口に向かおうとした瞬間――
カタリ…
背後で何かが動いた音がした。振り返ると、先ほどの写真立てが床に倒れていた。
「…もう、出よう…」
全員が無言で頷き、豪邸の出口へと急いだ。背後に何かがいるのを感じながら、私たちは必死に玄関扉を開け、外に飛び出した。
ようやく外に出て車に乗り込むと、全員が無言のまま荒い息をついていた。友人が震える手でスマホを取り出し、再び写真を確認する。
「…あれ?」
彼は困惑したように呟いた。先ほど撮った写真の中にあった白い服の女性が、消えていたのだ。
「え、どういうことだよ…?」
あの不気味な女性が写っていた写真が、今は普通の家族写真に戻っている。しかし、その笑顔は前よりも不自然に感じられ、まるで――
「何かを隠している」かのような気配を漂わせていた。
その夜、私たちは何も言えずに解散した。それ以来、誰もあの豪邸に近づくことはなかった。だが、今でもあの家族の写真が頭から離れない。
あの白い服の女性は、本当に存在したのだろうか――それとも、あの家族が見てはいけないものを隠していたのか。
写真はもう存在しない。しかし、あの夜の出来事が現実だったのかどうか、誰も確かめる術はない。ただ一つ言えるのは――
あの豪邸に、まだ何かが潜んでいるということだ。
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