それは、友人たちと肝試しに行った時のことだ。目的地は、地元で有名な心霊スポットの廃病院。そこは長い間放置され、不気味な出来事が絶えない場所だった。院内で亡くなった患者が幽霊となってさまよっているだの、医療ミスが隠蔽されていた場所だのと、怖い噂がいくつも飛び交っていた。
正直、私は気乗りしなかった。だけど、友人たちの「ビビるなよ」という言葉に引きずられ、仕方なくその病院に足を踏み入れることになった。
夜10時、私たちは錆びついたフェンスをくぐり、廃病院の入口に立った。割れた窓、崩れた壁、湿った風が漂う廊下――まるで時間が止まったかのような場所だった。
「うわぁ…ほんとにヤバいな」
「まぁ、大丈夫だって。ここで写真でも撮れば証拠になるだろ?」
友人の一人がスマホを取り出し、病院の入口を撮影した。
私たちは懐中電灯を片手に、長い廊下を進んだ。壁には剥がれたポスターが貼られ、車椅子が無造作に放置されている。天井からは配線が垂れ下がり、床にはガラスの破片やカルテが散乱していた。
途中で、友人がスマホを取り出し、何度も写真を撮っていた。
「せっかくだし、記念にいろんな場所を撮っておこうぜ。あとで面白いのが撮れてるかもしれないしな!」
「冗談でもやめろよ…変なものが写ったらどうするんだよ」
私は嫌な予感を抱きながらも、友人の後を追った。
しばらく進むと、奥に診察室を見つけた。ドアは半開きで、中には古い診察台や散乱した医療器具が置かれていた。友人は嬉しそうに部屋の中を撮影し始めたが、その時――
パシャッ
スマホのシャッター音が響いた瞬間、どこからか微かな声が聞こえた。
「…助けて…」
全員が一斉に顔を見合わせた。
「今、誰か…言った?」
「…聞こえたよな?」
私たちは息を呑み、周囲を見回したが、誰もいない。ただ、湿った空気の中に、何かの気配を感じた。
「やばい、もう帰ろう」
私たちは急いで廊下を引き返し、出口に向かった。後ろから何かがついてきているような気配に背筋が寒くなったが、振り返る勇気はなかった。
ようやく病院の外に出た時、全員が安堵のため息をついた。
「なぁ、撮った写真見てみようぜ」
少し落ち着いたところで、友人がスマホを取り出して撮った写真を確認し始めた。最初は、廊下や診察室を写した何の変哲もない写真ばかりだった。
しかし――ある写真で、全員の手が止まった。
それは、診察室を撮影した一枚の写真だった。診察台の横に、白い服を着た女性が立っているのが写っていたのだ。
「…これ、誰だ?」
「こんな人、いなかったよな?」
その女性は、虚ろな目でじっとこちらを見ていた。全身がぼんやりと白く透けており、まるでこの世の存在ではないかのように見えた。
さらに不気味だったのは、その写真だけではなかった。友人が他の写真を確認すると、別の廊下や部屋の写真にも、同じ女性が写り込んでいたのだ。どの写真でも、彼女はじっとこちらを見つめている。
「おい、どうする?これ、マジでヤバいやつじゃないか…」
私たちは全員、恐怖で顔が青ざめた。
その後、友人は怖くなってその写真をすべて削除した。だが、家に帰る途中で、彼は突然こう言い出した。
「…おかしい。写真を消したはずなのに、まだスマホに残ってるんだ…」
驚いて再びスマホを確認すると、確かに削除したはずの写真が元に戻っていた。しかも――
最後に確認した時、その女性の顔が少しずつこちらに近づいているように見えたのだ。
それ以来、友人はその写真が怖くてスマホごと処分した。しかし、時折彼の耳元で、あの病院で聞いた「助けて」という声が聞こえることがあるという。
そして、夢の中にあの女性が現れ、微笑みながらこう囁くのだ。
「また、会いに来てね――」
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