私がその廃病院を訪れたのは、友人たちと肝試しに行った時のことだった。地元では有名な心霊スポットで、長い間廃墟のまま放置されている病院。昔、院内で奇妙な事件が起きたとか、亡くなった患者が取り憑いているとか、いろいろな噂が飛び交っていた。
正直、私はそういう場所は苦手だった。でも、他の友人たちが「怖がるなよ」「みんなで行けば大丈夫だ」とからかうので、仕方なくついて行くことにした。
夜の廃病院は、想像以上に不気味な雰囲気を放っていた。壁は剥がれ、窓は割れていて、錆びた鉄扉が静かに風で揺れていた。月明かりが頼りなく、懐中電灯を照らしても薄暗い廊下が続いている。
「なんかヤバいな…」
「大丈夫だって。何も出やしないよ!」
そんなやりとりをしながら、私たちは院内を進んだ。受付を通り、薄暗い廊下の奥へと進んでいく。壁には古びたポスターや「静かに!」という看板がかかっていて、かつてここが病院だった名残を感じさせた。
しかし、あまりの静けさが逆に不安を掻き立てる。まるで時間が止まったような静寂――何かが待ち構えているような空気が漂っていた。
病院の奥へ進むと、古い診察室が見えてきた。ドアを開けると、そこには錆びついたベッドがあり、朽ち果てた医療器具が散乱していた。友人の一人が冗談で「ここで誰か手術されたんじゃない?」と言いながらベッドに寝転がった。
「おい、やめろよ!」
私は冗談でもそんなことをするなと思ったが、友人たちは笑っていた。そんな時だった――
カツ…カツ…
「今、聞こえた?」
一瞬、全員が黙り込んだ。確かに廊下の奥から足音が聞こえたのだ。誰かがゆっくりと歩いてくるような、規則的なカツ…カツ…という靴音。私たちはお互いの顔を見合わせた。
「誰かいるのか?」
友人の一人が声を出したが、返事はなかった。ただ、足音は徐々にこちらに近づいてくる。
「やばい、帰ろう!」
私たちはパニックになり、診察室を飛び出した。廊下に出て懐中電灯を照らしても、誰の姿も見えない。しかし、足音は確かに近づいてくるのがわかる。誰もいないはずの廊下で、足音だけが響いていた。
「走れ!」
私たちは全力で出口に向かって走り出した。しかし、どれだけ走っても出口にたどり着かない。廊下がいつの間にか長くなっていて、まるで同じ場所を何度もループしているようだった。
「おい、どうなってんだよ!」
焦る私たちの背後から、足音は確実に近づいてくる。そして、何かが私たちを追っているのを感じた。
「ここだ!」
ようやく曲がり角を見つけて、私たちは一斉にそこへ飛び込んだ。その瞬間――足音がピタリと止んだ。
息を切らしながら振り返ると、廊下の奥に白い影がぼんやりと浮かんでいた。それは人の形をしていたが、どこか不自然で、顔は見えず、ただこちらをじっと見ているようだった。
「…何だ、あれ?」
友人たちも恐怖に凍りつき、誰も動けなくなった。白い影はしばらく動かずに立ち尽くしていたが、やがてスッと消えるように消え去った。
その瞬間、周囲の空気が一気に解放され、私たちは我に返った。
その後、ようやく私たちは出口にたどり着くことができた。あの白い影が消えた途端、廊下のループも解け、普通の廃病院の姿に戻っていた。
外に出た私たちは、互いに顔を見合わせて、何も言えずにその場を離れた。誰も何が起きたのか説明できなかったが、あの足音と白い影は今でも頭から離れない。
それ以来、私は二度とその廃病院には近づいていない。あれが何だったのかはわからないが、きっと何かがまだあの場所に残っている――そんな気がしてならない。
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