あれは、まだ私が中学生だった頃の話だ。当時、ウォークマンが流行っていて、クラスのほとんどの生徒が自分のお気に入りのカセットテープを入れて音楽を聴いていた。私も欲しかったが、新品は高かったので、近所の中古屋でウォークマンを買うことにした。
その中古屋は、昔から町にある古びた店で、店内にはカセットやレコード、CDが雑然と並べられていた。お目当てのウォークマンはガラスケースの中に並んでいて、どれも使い古されたものばかりだったが、私はその中でも、真っ黒な機種を選んだ。シンプルな見た目が気に入ったからだ。
「これ、動くよな?」と店主に尋ねると、彼は愛想なく頷いた。
「動くけど、中に入ってるテープは勝手に捨ててくれよ」
そう言われ、私は「なんだそれ?」と思いながらも、そのウォークマンを買って帰った。
家に帰り、早速ウォークマンを手に取った。電池を入れてイヤホンを差し、再生ボタンを押してみると、機械はちゃんと動いた。カセットの中にはすでに何かが録音されているテープが入っていたが、最初は前の人が気に入っていた音楽でも入っているのかなと、気にせず再生した。
ところが――
再生が始まると、イヤホンから奇妙な音が流れてきた。
「……はぁ……はぁ……聞こえる……?」
最初はかすかな息遣いのような音だった。そして、誰かの声が途切れ途切れに聞こえてくる。
「……ここは……寒い……助けて……誰か……」
その声は、どこか怯えたようなトーンで、男とも女ともつかない、不安定なものだった。ノイズが混じりながら、その声は続く。
「……どこにいるの……ここ……いつまで……」
私は怖くなり、急いで停止ボタンを押した。心臓がドクドクと脈打つ音が耳の奥で鳴り響く。
「……何これ、誰かのいたずらか?」
だが、誰かがわざわざこんな不気味なものを録音して中古屋に売るだろうか?嫌な気持ちを抱えながらも、「ただの古いテープだろう」と自分に言い聞かせた。
次の日、学校にウォークマンを持って行き、友人たちに話してみた。
「昨日、中古屋でウォークマン買ったんだけど、中のテープがなんかおかしくてさ…」
「おいおい、そういうのは呪いのアイテムかもしれないぞ?」
冗談めかした友人の言葉に、みんなが笑った。しかし、私の顔が真剣なのを見て、数人が興味を示した。
「そのテープ、今持ってんの?」
「うん、聞いてみる?」
私はウォークマンを取り出し、再生ボタンを押した。
ところが――
昨日聞いたはずの不気味な声は消えていて、ただのノイズしか聞こえなかった。
「え、何これ? 昨日とは違う…」
友人たちは「お前、怖がらせようとして嘘ついてるだろ」とからかってきたが、私は本当に聞いたことを伝えた。だが、誰も信じてくれなかった。
「まあ、ただの壊れたテープなんだろ」
私も不安になりながらも、その日はそれ以上気にしないようにした。
だが、その夜――再びウォークマンを再生すると、またあの声が戻ってきた。
「……聞こえる……? 私は……ここに……」
まるで私に直接語りかけてくるかのような声だった。昨日よりも明確に聞こえるその声は、次第に不安定な音を伴い、ノイズと一緒にこんな言葉が続いた。
「……戻れない……ここは、出口がない……」
その瞬間、イヤホンの中で笑い声が混じった。それは小さく、かすれた笑い声だったが、不気味で冷たい響きだった。
私はウォークマンを思い切り外し、テープを引き出して床に叩きつけた。心臓が早鐘のように鳴り、汗が背中を伝う。これはただの古いテープなんかじゃない――何かがおかしい。
次の日、私は再びそのテープを確認する勇気がなかった。もう二度とあの声を聞きたくない。ウォークマンごと処分することを決め、中古屋に持って行くことにした。
中古屋の店主は私を見て、薄く笑った。
「お、戻ってきたか。それ…やっぱり何か変なことがあったんだろ?」
「…あれ、何か入ってたんですか?」
店主は軽く肩をすくめ、こう言った。
「さぁな。でも、そのウォークマン、持ってきた客が『もう二度と聞きたくない』って言って置いていったやつなんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、私は寒気に襲われた。
「……それ、誰が売ったか知ってますか?」
「うん、覚えてるさ。数年前に持ち込んだんだけどな――その人、その直後に亡くなったらしいよ」
私は何も言えなくなり、急いで店を後にした。もう二度とウォークマンには触れないと誓ったが――今でも、時折耳元で、あの声が囁くような気がする。
「……聞こえる……? ここにいる……」
そして私は思う。もしあの時、あのテープを最後まで聞いていたら、何を知ることになったのだろうかと――
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