それは夏休みの終わり頃、友人たちと出かけた心霊スポットの廃校での出来事だった。山の奥深くにあるその学校は、何十年も前に閉鎖され、そのまま放置されている。校舎が放置されてからも奇妙な噂が絶えず、「夜中に子供の笑い声が聞こえる」とか、「教室で誰かが立っているのを見た」という話が広まっていた。
好奇心旺盛な友人たちが「肝試しに行こう」と言い出し、私も無理やり参加させられることになった。
夜9時過ぎ、車を降りて歩くと、廃校の姿が見えてきた。校舎は昔のまま残っていたが、ガラス窓は割れ、壁はひび割れ、蔦が絡んでいて、その姿はまさに廃墟そのものだった。校庭に立つと、夜の闇に包まれた廃校はまるで巨大な墓標のように見えた。
「うわ、マジでここ入るのかよ…」
「ビビるなって。誰もいないだろ、ただの廃墟だし」
冗談交じりに言いながら、友人たちは笑っていたが、その声はどこか上ずっていた。私たちは懐中電灯を照らしながら、錆びついた鉄の扉を開け、中へと入った。
校舎内は思った以上に広く、静まり返っていた。廊下には埃が積もり、昔の掲示板には色褪せたポスターが貼られていた。割れた窓から吹き込む風が、ガラスの破片を微かに揺らし、不気味な音を立てている。
「まずは教室だな。どんな感じか見に行こう」
私たちは階段を上がり、2階の教室へと向かった。教室のドアを開けると、埃まみれの机と椅子がそのまま残っていた。廃墟特有のかび臭い匂いが漂い、床には古いノートが散らばっている。
ふと背後から誰かの気配を感じた。
「……今、誰かいた?」
振り返っても、そこには誰もいない。だが、教室の隅に置かれた古い椅子が、わずかに揺れているのを見つけた。
「風のせいだろ…」
「でも、こんな椅子が動くか?」
私たちはお互い顔を見合わせ、無言で教室を後にした。
次に向かったのは体育館だった。鉄の扉を開けると、広い体育館が暗闇の中に広がっていた。ステージの幕はボロボロで、床にはバスケットボールがいくつか転がっていた。
「おい、あれやろうぜ」
友人たちの一人がふざけて、体育館のバスケットゴールに向かってボールを投げ始めた。ボールは静かにゴールを外れ、ゴロゴロと音を立てて転がった。だが――その瞬間、奇妙なことが起こった。
コツ…コツ…コツ…
誰もいないはずの体育館で、足音が響いたのだ。
「今の、誰か歩いてる?」
「……気のせいだろ?」
そう言いながらも、全員の顔には明らかな恐怖が浮かんでいた。足音はゆっくりとこちらに近づいてくる――まるで、何かが私たちを探しているかのように。
「もうやめよう、帰ろう…」
私たちは慌てて体育館を出て、再び校舎に戻ろうとした。だが、その時――
教室の窓に、誰かが立っていた。
「……誰だ?」
懐中電灯を向けると、その窓の中には、子供の姿がぼんやりと見えた。白い服を着た子供が、私たちをじっと見下ろしている。だが、その顔ははっきりと見えない――まるで、靄がかかっているかのように不鮮明だった。
「ヤバい、早く帰ろう!」
全員が一斉に走り出し、出口へと向かった。
ようやく校舎の外に出た時、友人が叫んだ。
「おい、撮った写真、ヤバいぞ…!」
その友人がスマホを取り出し、先ほど撮った体育館と教室の写真を見せてきた。そこには、私たちが立っていた場所のすぐそばに――見知らぬ子供が写り込んでいたのだ。
その子供は、窓から見たのと同じ白い服を着ていた。そして、どの写真でも、彼は不気味なほど笑顔を浮かべていた。
「こんな子供、いなかったよな…?」
全員が顔を見合わせ、何も言えなかった。恐怖に駆られ、私たちは一刻も早くその場所から立ち去った。
それ以来、私は二度とその廃校に近づいていない。だが、時折思い出す――あの笑顔を浮かべた子供の写真。そして、あの夜の出来事が夢か現実かを確かめる術はもうない。
あの子供は今でもあの廃校に取り残されているのだろうか。
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