高校時代から仲の良かった友人、ユウタから、ある日突然、奇妙なお願いをされた。
「もし、俺に連絡が取れなくなったら、この合鍵を使ってアパートに来てくれ」
唐突に渡されたアパートの合鍵に、私は驚き、冗談だと思った。
「なんだよ、それ。お前、どこかに消えるつもりか?」
ユウタは苦笑いを浮かべるだけで、詳しいことは何も言わなかった。私もそれ以上は深く追及しなかった。
だが、それから数日後、本当にユウタとの連絡がつかなくなった。
最初は「またスマホの電源切ってんだろ」と軽く考えていたが、何度連絡しても返信はない。SNSも更新されず、共通の友人たちも誰も彼と連絡が取れないと言う。
さすがに不安になり、共通の友人タカシと一緒に、ユウタのアパートへ行くことにした。
その日の夜、ユウタのアパートに到着した。
薄暗い廊下に並ぶ部屋の一つ。インターホンを押したが、何の反応もない。カーテンの隙間から中を覗いても、人の気配は感じられなかった。
「……開けてみるか?」
タカシに促され、私はユウタから預かっていた合鍵を使い、ドアを開けた。鍵が開く音と共に、私たちは静かに室内へ足を踏み入れた。
部屋の中は思ったよりも綺麗だった。
無造作に物が散らばっている様子もなく、ちゃんと生活感がある。冷蔵庫には食材があり、飲みかけのペットボトルがテーブルに置かれている。ただ――
ユウタの姿がない。
スマホはテーブルの上に無造作に置かれており、充電も少し残っていた。
「おい、これロックかかってないぞ……」
タカシが手に取って画面を操作していると、私はふと気になって、スマホのアルバムアプリを開いてみた。
「……これ、動画がある」
アルバムに保存されていたのは、ユウタ自身を撮影した複数の動画だった。それも、すべて同じ場所――このアパートのリビングで撮られたようだった。
最初の動画は、何の変哲もない内容だった。
「……今日は特に何もないな。まだ大丈夫……」
ユウタが落ち着いた表情で、自分を撮影していた。
だが、次の動画を再生すると、彼の様子が少し変わっていた。
「……最近、誰も俺に気づいてくれなくなってきた。もしかして、本当に俺、消えるのかもしれない……」
その言葉に、私は嫌な予感を覚えた。日を追うごとに撮影された動画の中で、ユウタの顔には疲労と恐怖がにじみ出ていく。
「……今日、コンビニの店員も俺のこと、見えてなかったみたいだ……」
「これ……何言ってんだ?」タカシが不安そうに呟いた。
さらに動画を進めると、ユウタは怯えきった表情で、次のように言っていた。
「……俺、もうこの世から消え始めてるんだと思う。昨日は、コップを手に取ろうとしたのに……触れなかった」
そう言いながら、ユウタはテーブルの上に置かれたコップに手を伸ばす。だが――
彼の手は、コップをすり抜けた。
「う、嘘だろ……」
画面越しに見たその映像に、私は全身が凍りつくのを感じた。まるでユウタの手が、幽霊のように透明になっているかのようだった。
そして、最後の動画に辿り着いた。
画面の中で、ユウタはまるでこの世の最後を迎える人間のように、無表情で座っていた。
「これで……最後だ。もし、この動画を誰かが見てくれているなら……ごめん。多分、もう俺には戻る方法がない……」
彼の体が、徐々に薄くなっていくのが映像越しに分かる。最初はうっすらとだが、次第にその姿は薄れ、ついには完全に消えてしまった。
そして――カメラはそのままの状態で、誰もいないリビングを映していた。
「……これ、どういうことだよ?」
タカシが震える声で言ったが、私にも何が起こっているのか分からなかった。ただ一つ言えるのは――ユウタは、この世から消えたということだ。
私たちはそのままアパートを後にした。警察に相談するべきかどうかも考えたが、何をどう説明すればいいのか分からなかった。
それ以来、ユウタから連絡は一切ない。彼のSNSも更新されず、誰も彼の行方を知らない。
時折、私はふと考えてしまう――ユウタは本当に消えてしまったのか? それとも、今もどこかでこの世と別の場所の狭間に存在しているのだろうか。
そして、もし次にこの世から消えるのが自分だったら――どうすればいいのか。
あの動画を見たことが、何かの始まりだったのかもしれないという不安が、今も心の奥にこびりついている。
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