怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

視線の正体 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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それは、夏の夜、自宅の部屋で勉強をしていた時のことだった。エアコンの調子が悪く、窓を少し開けて外の空気を入れていたが、夜の風は生ぬるく、あまり気持ち良くなかった。

時計を見ると、深夜2時を過ぎていた。疲れた頭を冷やすため、一旦机から離れてベッドに横になった。部屋には私一人――家族はみんな寝静まっていて、リビングも真っ暗だった。

静かな夜。時計の針の音だけが、部屋に響いていた。

ふと、誰かの視線を感じた。

「……ん?」

私は体を起こし、周囲を見回した。

窓の外は静かで、薄暗い路地には誰の姿も見えない。もちろん、部屋の中にも誰もいない。

「気のせいか……」

再びベッドに横たわり、目を閉じたが――あの視線は消えなかった。

どこからか、じっと見られている気がする。背中に誰かの気配を感じて、全身が鳥肌で覆われた。

「……誰もいないよな?」

もう一度、部屋の隅々を見回すが、何もおかしいところはない。ただ、どこか得体の知れない視線が、この部屋に漂っている気がした。

嫌な汗が背中を伝う。気を紛らわせようと、机に戻り、スマホをいじったりしてみたが、視線の感覚がどうしても消えない。

それどころか、何かが近づいているような気さえした。

「……風のせいか?」

そう思い、窓を閉めようと立ち上がった。その時――

カサッ

何かが動く音が、すぐ背後で聞こえた。

私は慌てて振り返ったが、誰もいない。

部屋の空気が重く、まとわりつくような嫌な感覚に襲われる。心臓が早鐘のように鳴り、呼吸が浅くなる。

もう一度、部屋の隅をじっと見つめるが、やはり誰もいない――はずだ。

だが、その時、ふと鏡に目が留まった。

鏡に映る自分の背後――誰もいないはずの場所に、ぼんやりとした影が立っていた。

「……っ!」

慌てて振り返るが、影は消えていた。再び鏡を見ても、そこには自分しか映っていない。

「気のせいだ……きっと疲れてるだけだ」

自分に言い聞かせながら、急いで窓を閉め、カーテンを引いた。だが、どうしても誰かの視線が消えない。

その夜、私は結局、一睡もできなかった。

翌朝になっても、背後に誰かが立っているような感覚が続いていた。家族に話しても、みんな笑って取り合ってくれない。

しかし、それ以来――

私は時々、ふとした瞬間に感じる。学校や通学路、どこにいても、背後からじっと見つめられている感覚が消えない。

それは、誰もいないはずの場所から――確実に視線だけが追いかけてくるのだ。

もしかしたら、あの夜、私の背後にいたものは、今でも私を見続けているのかもしれない。姿は見えないけれど、ずっと近くで――。

そして、あの時のように、また背後でカサッという音が聞こえたなら――私は今度、無事でいられる自信がない。



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