それは、小学生の頃の不思議な出来事だ。あの日、いつものように友達と一緒に学校から家まで帰っていた。
途中の公園で友達と別れ、私は一人で家へ向かって歩き始めた。いつも通りの道を歩いているのに、あの日は何か違う空気が流れていた。
「……何か変だな……」
ランドセルを背負い、早足で歩いていると、背中に不気味な気配を感じた。
「……誰かいる?」
私は思わず足を止め、後ろを振り返った。
すると――そこには黒い影があった。
それは、人の形をしていたが、全身が黒いもやのようにぼんやりとしていて、輪郭が曖昧だった。その影が、ゆらゆらと揺れながら、まっすぐこちらに向かってきていた。
「……なんだ、あれ……?」
不気味なその姿に背筋が凍りつく。怖い――そう直感した私は、とにかく早く家に入らなければと思い、前を向いて歩き出そうとした。
だが、次の瞬間――
今度は前方の道の先に、白い影が見えた。
「え……?」
その白い影も、人の形をしていたが、どこか霞んだような、光をまとったもやのようだった。それもまた、ゆらゆらと揺れながら、私に向かって近づいてくる。
「……やばい、どうしよう……」
私は冷や汗をかきながら、どうするべきか迷った。だが、このまま立ち尽くしていたら、両方の影に囲まれてしまう――そう思い、全力で家に向かって走り出した。
玄関に飛び込むと、弟がリビングから顔を出し、のんびりした声で言った。
「お兄ちゃん、おかえりー」
私は荒い息を整えながらも、すぐに弟に言った。
「やばい、変なものが外にいるんだ! 来て!」
弟は少し驚いた顔をしながらも、素直についてきてくれた。
私は弟と一緒に2階へ急いで駆け上がり、窓から家の前の道を覗き込んだ。
「見て! あれ……!」
窓の外の道――
右の方からは、黒い影がゆらゆらとこちらに向かって歩いてきていた。
左の方からは、白い影が同じように揺れながら、ゆっくりと近づいてくる。
弟もその異様な光景に息を呑み、私の隣で窓に顔を押し付けて言った。
「……何だよ、あれ……?」
二つの影は、ゆっくりと進み、やがて家の前でぶつかりそうになった。私と弟は、二つの影がどうなるのか、息を詰めて見守っていた。
そして――
黒い影と白い影がぶつかった瞬間、二つの影はぐるぐると回転を始めた。
「……回ってる……!」
二つの影は、お互いを巻き込むようにしてぐるぐると渦を描きながら混ざり合い、次第にグレーの色へと変わっていった。
そのグレーの渦は、回転するたびに形が崩れていき、徐々にその存在を薄れさせていく。
「……消える……?」
弟がそう呟いた瞬間、グレーの渦はふっと音もなく消え去った。
まるで最初から何もなかったかのように、道にはただ静かな夕闇が広がっていた。
「……何だったんだろう、あれ……」
弟も私も、しばらくの間、言葉を失ったまま窓の外を見つめていた。
あの日の二つの影――
あれが一体何だったのか、今でも分からない。
ただ一つ確かなのは、もしあの影たちの間に私が挟まれていたら、どうなっていたのか――考えるだけで、今でもゾッとする。
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