それは、私が小学生だった頃の話だ。普段は友達と一緒に帰るのが当たり前だったが、その日はなぜか一人で下校することになった。学校の掃除が長引いたせいで、私だけ他のみんなよりも遅くなってしまったのだ。
季節は秋。夕方になると、日が急に暮れてしまい、外はどこか寂しい雰囲気に包まれていた。
学校から家までは15分ほどの道のりだった。途中に小さな公園があり、普段なら友達と遊ぶことも多いのだが、今日はその公園も静まり返っている。人気がなく、風が木々をざわめかせている音だけが耳に響いた。
「……早く帰ろう」
私はランドセルを背負い直し、一人で歩き始めた。
いつもは友達とおしゃべりしながら歩く道も、一人だと不安になる。住宅街を抜け、細い路地に入ると、あたりはさらに暗くなった。夕暮れのオレンジ色の光が、空の端にかすかに残るだけ。
歩いていると、ふと、背中に誰かの視線を感じた。
「……誰か、いる?」
振り返ったが、そこには誰もいない。ただ、静かな道が伸びているだけだった。
「気のせいか……」
自分に言い聞かせ、歩き出したが、その瞬間――
後ろから、かすかな足音が聞こえた。
コツ……コツ……
私の足音に重なるように、一定のリズムでついてくる音。
「……誰か、ついてきてるの?」
怖くなって、振り返ったが――やはり誰もいない。
私は急に怖くなり、早足で家に向かって歩き出した。それでも、背後から足音はついてくる。
コツ…コツ…
音は確かに私のすぐ後ろから聞こえるのに、振り返っても何もいない。
「お母さん、早く帰りたい……」
足を速め、ついには走り出した。家までの道が、いつもより何倍も長く感じられた。
やっとの思いで自宅にたどり着き、玄関の扉を勢いよく開けた。
「ただいまー!」
母の声が返ってくることを期待して叫んだが――家の中は静まり返っていた。
「おかしい……?」
時計を見ると、まだ夕方5時。いつもなら母はもう帰っているはずだ。
「お母さん……?」
不安になり、玄関に立ち尽くしていると、ふと――後ろから足音が近づいてくるのを感じた。
コツ…コツ…
振り返る勇気が出ない。だが、確かに何かがすぐ背後に立っているのを感じる。
「……誰……?」
私は恐る恐る振り向いた――
だが、そこには誰もいなかった。
ただ、玄関の扉がゆっくりと風に押されるように閉まり、重たい音を立てて鍵がかかった。
それ以来、私は一人で下校することが怖くなった。誰もいないはずの道から、今も時々、足音がついてくるような気がしてならない。
あの日、私の後ろについてきたのは――本当に誰もいなかったのだろうか?
■おすすめ
マンガ無料立ち読み
1冊115円のDMMコミックレンタル!
人気の漫画が32000冊以上読み放題【スキマ】
ロリポップ!
ムームーサーバー
新作続々追加!オーディオブック聴くなら - audiobook.jp
新品価格 |
ページをめくってゾッとする 1分で読める怖い話 [ 池田書店編集部 ] 価格:1078円 |