それは、私が小学生の頃の話だ。あの日は、クラスの後片付けをしていたせいで、一人で下校することになった。いつもなら友達と一緒に賑やかに帰る道も、その日は一人ぼっち。なんだか心細く感じながら、ランドセルを背負って歩き出した。
学校から家までの道は、住宅街を抜けて、細い路地を通り、大通りに出るといういつものルートだった。日も暮れかけていて、夕闇が少しずつ街を包み始めていた。
歩き始めてしばらくすると、ふと気づいたことがある。いつもなら誰かが歩いている通りに、今日は誰もいない。たまに通る車も、自転車もない。
「……変だな」
その不気味さに胸がざわついたが、「大通りに出ればきっと人がいる」と自分に言い聞かせ、足早に歩いた。
薄暗い路地を歩いていると――
背後に何かの気配を感じた。
「……誰かいる?」
振り返ったが、誰もいない。ただ、オレンジ色の街灯の光が、路面に静かな影を落としているだけだった。
私は妙な胸騒ぎを覚え、急いで歩き始めた。すると――
ふいに視界の端に黒い影が見えた。
「……あれ、何だ……?」
その影は、ちょうど私の進行方向の少し先にいた。街灯の明かりの中、地面に人の形をした真っ黒な影が落ちていたのだ。しかし、その場所に誰も立っていない。影だけがそこにある。
「……なんで影だけ……?」
私はその異様な光景に動けなくなり、その場に立ち尽くしてしまった。すると――
影が、ゆっくりとこちらに向かって動き始めた。
「……うわっ!」
心臓が跳ね上がり、私は慌てて足を動かし、影から逃げようと走り出した。ランドセルが背中で揺れ、呼吸が苦しくなる。それでも、足を止めるわけにはいかなかった。
何とか影から逃れようと走り続け、ようやく大通りに出た。
だが――そこにも誰もいない。
「なんで……」
いつもなら、車がひっきりなしに通る大通り。歩行者や自転車も多いはずなのに、今日に限って一台の車も、誰一人として見当たらない。
私は心臓が潰れそうなほどの不安に襲われた。周囲を見回しながら、再び足を速めた。すると――今度は、道の向こうに白い影が見えた。
「……誰?」
それは、まるで人の形をした白いもやのようなものだった。ゆらゆらと揺れながら、ゆっくりとこちらに向かって進んでくる。
私は黒い影から逃げたばかりで、白い影に対しても、どうしても近づいてはいけないという本能的な恐怖を感じた。
「やだ、怖い……」
私は背筋が凍りつき、再び全力で家に向かって走り出した。ランドセルの重さも忘れ、ただひたすら走り続けた。黒い影、白い影――どちらも振り返らないように心に決め、ひたすら家に向かった。
ようやく家にたどり着き、玄関の扉を乱暴に開けて中に飛び込んだ。
「ただいま!」
息を切らしながら声を上げると、母が驚いた顔でキッチンから顔を出した。
「どうしたの、そんなに急いで?」
「う、ううん……何でもない」
私は、母の顔を見て少し安心したが、同時にあの影たちが追いかけてきていないか気になり、恐る恐る玄関を振り返った。
だが、そこには何もいなかった。
ただの夕闇に包まれた静かな玄関があるだけだった。
あれは、ただの疲れからくる見間違いだったのか――?
それとも、あの時、私は何か別の世界に入り込んでしまったのだろうか?
10年以上経った今でも、あの黒い影と白い影のことを思い出すたびに、背筋がぞっとする。
「何も起こらなくてよかった……」
そう思いながらも、あの時、もし影たちに追いつかれていたら、どうなっていたのか――今でも考えるだけで震えが止まらない。
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