大学時代から仲の良いタケルとは、何でも話し合える間柄だった。明るくて人懐っこい性格で、みんなの中心にいるようなタイプだったが、ある日を境に、彼の様子が急におかしくなった。
最初に違和感を覚えたのは、連絡の頻度が減ったことだ。LINEを送っても返信はそっけないか、既読スルーされることが多くなった。もしかして何かトラブルでもあったのかと心配したが、直接会って話をしようとすると、彼はやたらと避けるようになった。
それからしばらくして、共通の友人から「タケルが最近変だ」という話を聞いた。
「会うたびに別人みたいになっていくんだよ。話し方も声のトーンも前と全然違うし、なんか目つきもおかしい」
「それ、本当か?」
私はいてもたってもいられず、直接タケルに会いに行くことにした。久しぶりにLINEを送り、無理やり約束を取り付けて、彼のアパートに向かった。
ドアが開き、タケルが出迎えてくれた時――私は思わず息を呑んだ。
「……タケル、だよな?」
目の前に立っていたのは、確かにタケルだった。だが、その顔は以前の彼とはまるで別人のように感じられた。
目の奥に輝いていた活気が消え、どこか虚ろな表情。顔色も悪く、まるで別の何かが彼の中に入り込んでいるかのようだった。
「どうしたんだよ、最近連絡も取れないし、みんな心配してるぞ」
そう言うと、タケルはゆっくりと笑った――だが、その笑顔は以前の彼のものとは全く違った。無理に引きつったような笑顔で、目は笑っていなかった。
「……俺、大丈夫だよ。でも、もうあんまり会わない方がいい」
その言葉に、私は言葉を失った。
「どういうことだよ? お前、何かあったんだろ?」
タケルは一瞬、言葉を詰まらせた後、小さな声で呟いた。
「……俺、もう前の俺じゃないんだ」
それから数秒の沈黙が、部屋の中に重くのしかかった。
「どういう意味だよ、それ。ちゃんと話してくれ」
そう詰め寄ると、タケルは突然、顔を覆って笑い出した。不気味な、壊れたような笑い声だった。
「……何で俺のことが分かるんだ? お前は、本当に俺だと思ってるのか?」
その言葉に、私は背筋が凍るような寒気を感じた。目の前にいるタケルは、タケルじゃない――そんな感覚が一瞬、頭をよぎった。
「おい、何言ってんだよ……」
私は一歩後ずさった。するとタケルは、今度は急に真顔になり、まるで別人のような低い声でこう言った。
「俺に触れるな――お前も同じになるぞ」
その瞬間、私は耐えきれなくなり、無言でアパートを飛び出した。全速力で走り、何度も振り返ったが、タケルは追いかけては来なかった。
その後、タケルからの連絡は完全に途絶えた。共通の友人たちに聞いても、誰も彼と連絡が取れないまま。気味が悪くなった私たちは、彼の話をしないように暗黙の了解で決めた。
そして――
ある日、街中で偶然、タケルに似た男を見かけた。だが、私は声をかけることができなかった。
その男はタケルによく似ていたが、目の奥には深い闇が宿っていたからだ。
あれは、本当にタケルだったのだろうか――それとも、あの日を境に彼の中に何かが入り込んでしまったのだろうか。
今も、あの歪んだ笑顔が頭から離れない。
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