それは、私が小学生の頃の話だ。あの日の出来事は、今でも鮮明に思い出せる――そして、思い返すたびに、今でも背筋がゾッとする。
あの日、放課後に私は学校の裏門から一人で下校することになった。友達は先に帰ってしまい、私は教室の掃除を終えて遅れてしまったのだ。
普段は誰かと一緒に帰る道も、その日は一人。いつもなら、裏門から出ると通学路に誰かしらの姿がある。近所の人や友達、通り過ぎる車――誰もが当たり前のようにそこにいるはずだった。
しかし、その日は違った。
「……あれ?」
学校を出てしばらく歩いても、人の姿が一人もないのだ。静まり返った通りには、普段なら聞こえるはずの話し声や車のエンジン音もない。風が枯葉を転がす音だけが、寂しく響いていた。
「まぁ、少し歩けば大通りに出るから……」
私はそう自分に言い聞かせ、歩き続けた。
だが、歩けども歩けども、人の気配がまるでない。
それどころか、車が通るはずの細い抜け道にも一台も車が見当たらない。いつもなら、自転車に乗った中学生や犬の散歩をするおばさんに会うのだが、その日は本当に誰もいない。
「……何で?」
不安がじわじわと胸の奥に広がっていく。だが、もう少し行けば大通りに出る。そこに出れば、きっとたくさんの人や車がいるはずだ。
私は不安を抑え、足早に歩き続けた。
ようやく大通りに出た。
しかし――
そこにも誰もいなかった。
「うそ……」
普段なら車がひっきりなしに行き交い、信号待ちの歩行者でにぎわう大通り。なのに、その日は車もバイクも一台もない。自転車に乗る人も、歩いている人も、誰一人見当たらない。
「なんで……?」
私は胸の奥が冷たくなるのを感じた。もしかして、自分以外の人たちはみんな消えてしまったのではないか――そんな馬鹿げた考えが頭をよぎる。
足が震え出し、冷や汗が背中を伝う。
「……怖い」
私はたまらなくなり、走り出した。自分の足音だけが、アスファルトに響いて不気味に聞こえる。
「早く帰らないと……!」
何もいない道を全力で走った。家が見えた時、心臓が破裂しそうなほど高鳴っていた。
「ただいま――!」
息を切らしながら玄関を開けると、すぐに母が顔を出した。
「おかえり。どうしたの、そんなに急いで?」
母の優しい笑顔を見た瞬間、全身から力が抜けた。ようやく、いつもの世界に戻ってこれたような気がして、ほっと胸を撫で下ろした。
「ううん、運動したくて、走って帰ってきただけ」
私はそう言って、恐怖を隠そうとした。母は少し不思議そうな顔をしたが、それ以上は何も聞いてこなかった。
あの日、あの無人の街は何だったのだろうか?
大人になった今でも、あの出来事を思い出すと、現実に起きたことだったのか、夢だったのか分からなくなる。それがただの偶然で、たまたまその時だけ誰にも会わなかっただけだったのかもしれない――そう考えようとしても、心のどこかで納得がいかない。
あの時、私は本当に一人だけ、別の世界に迷い込んでいたのではないか――そう思わずにはいられない。
今でも、時々思う。あのまま、もし誰にも会えないままだったら――私は二度とこの世界に戻れなかったのではないかと。
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