あの日、私と弟は家の近所の公園に遊びに行った。まだ小学生だった私たちは、友達を誘うこともなく、二人だけで暇つぶしに遊びに行くことにした。
その日は晴天で、風も心地よく、絶好の遊び日和だった。だけど――不思議なことに、公園には誰もいなかった。
「ラッキー! 誰もいない!」
弟は嬉しそうに駆け出し、遊具へまっしぐらに向かった。普段なら順番待ちが必要なブランコも、滑り台も、ジャングルジムも全部空いている。
私も弟と同じ気持ちだった。「遊び放題だな!」と言いながら、まずは二人でブランコの競争を始めた。
いつもなら誰かが来そうな時間だったが、誰一人来ないまま、二人きりで遊んでいた。
最初は楽しかった。でも――時間が経つにつれて、私は次第に違和感を覚え始めた。
「……なんか変じゃない?」
「え?」弟は首をかしげた。
「だって、こんなにいい天気なのに誰もいないなんて、おかしくない?」
そう言った時だった。ふと、遊具が風もないのに勝手に動いていることに気がついた。
隣のブランコが、私たちが乗っていないのに、ゆっくりと揺れ始めていたのだ。
「……お兄ちゃん、誰かいるの?」
弟も異変に気づいたようだった。私は無意識に周囲を見回したが、誰の姿も見当たらない。ただ、聞こえるのは、ブランコのギシ……ギシ……という音だけ。
「……帰ろうか?」
不安が胸に広がり、私は弟に言った。だが、その時――
「お兄ちゃん、見て!」
弟が指差した先を見て、私は息を呑んだ。滑り台の上に、誰かが座っている――いや、何かが座っているのだ。
その姿は、ぼんやりと人の形をしていたが、全身が黒いもやで覆われていて、顔もはっきりとは見えない。
その時、背後のジャングルジムにも目を向けると――今度は、白い影が見えた。白いもやのようなものが、ジャングルジムの上で、まるで子供が座っているかのように、じっとこちらを見ていた。
「……逃げるぞ!」
私は弟の手を強く引き、急いで公園の出口へと向かった。だが、その時――
黒い影と白い影が同時に動き出した。
滑り台の黒い影と、ジャングルジムの白い影が、それぞれ私たちの方へゆっくりと近づいてくる。
「……追いかけてくる……!」
弟が震えた声でそう言ったが、私も振り返る勇気などなかった。ただ、必死に足を動かし、弟の手を引いて走った。
ようやく公園の出口にたどり着き、振り返ると――そこには、もう何もいなかった。
静まり返った遊具が、ただ風に揺れているだけだった。
それから私たちは無言のまま家に帰り、何もなかったかのように日常を過ごした。
しかし、あの公園に二人だけで行くことは、二度となかった。
それから何年も経ち、私も弟も大人になった。ある日、ふとあの日の話を思い出し、弟に尋ねてみた。
「なあ、あの日の公園のこと、覚えてるか?」
弟は少し考えてから、こう答えた。
「覚えてるよ……あの黒い影と白い影、だろ?」
「やっぱり、お前にも見えてたんだな……」
弟は真剣な顔で続けた。
「なぁ、兄貴、あの影たちって何だったんだろう……? あのまま捕まってたら、俺たちどうなってたのかな……」
私も、その問いの答えは分からなかった。
ただ――今でも、あの日のことを思い出すたびに、背中に冷たいものが走る。
あの影たちが、もし本気で追いかけてきていたら――私たちは二度と家に帰れなかったのかもしれない。
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