目次
金縛りの夜
大学生のタカシは、連日課題に追われて疲労が溜まっていた。ある夜、布団に潜り込んでようやく眠りについたとき、突然「それ」はやってきた。
――体が動かない。
金縛りだと気づいたタカシは、目を閉じたまま必死に落ち着こうとする。金縛りは何度も経験していたが、今回のそれは明らかに様子が違った。部屋がいつもより異様に静まり返り、空気が冷たく、そして――重苦しい。
突然、タカシの耳元でかすかな足音が響いた。
「……トン、トン……」
恐怖に体が凍りつく。何者かが部屋の中を歩いている。目を開けてはいけないという直感が働いたが、好奇心と恐怖に耐えきれず、タカシはそっと目を開けた。
――そこには、「黒い影」がいた。
黒い影の正体
影は人間のような形をしているが、顔も服もまるで墨で塗りつぶしたように真っ黒だった。その黒い影はタカシの枕元にじっと立ち、彼を見下ろしているようだったが、目も口も見えない。その影が、ゆっくりと腕を伸ばし、タカシの胸に手を置いた瞬間――。
「ぐっ……!」
重圧がさらに増し、呼吸ができなくなった。金縛りが強まったかのように体が完全に縛られた感覚に陥る。タカシは必死に目を閉じ、逃れようとするが、どんどん意識が薄れていく。
その時、タカシの視界の隅に、もう一つの「白い影」が現れた。
白い影の警告
白い影は、ふわりと浮かぶようにタカシのベッドの脇に立っていた。それは淡くぼんやりとしているが、黒い影とは明らかに違う、どこか優しさを感じる存在だった。その白い影が、黒い影の腕を掴むようにして引き離した瞬間、タカシの金縛りがふっと解けた。
「はぁ……はぁ……」
息を取り戻したタカシは、慌てて身を起こし部屋を見渡す。だが、黒い影も白い影も、何も見当たらない。ただの夢だったのか――そう思いながら布団に戻ろうとした時、何かが胸に触れる感覚がした。
タカシはそこで凍りついた。黒い痕が、胸の上にくっきりと残っていたのだ。
消えぬ影
それからというもの、タカシは何度も同じ夢を見るようになった。必ず黒い影が現れ、彼の体を縛りつける。そして、白い影が現れて助けてくれるのだ。白い影はまるで、黒い影からタカシを守っているかのようだった。
しかし、ある夜。いつもとは違う何かが起こった。
夢の中、タカシは再び金縛りにあい、黒い影が彼の枕元に立っていた。しかし今回は、白い影がなかなか現れない。黒い影の手が再びタカシの胸に置かれ、冷たい指がゆっくりと食い込んでくる。
「……やめろ……」
心の中で必死に叫んだその瞬間、白い影がふっと現れ、黒い影に飛びかかろうとした――だが、黒い影は笑った。
タカシには分かった。白い影はもう限界なのだ。黒い影は、今夜が最後だと言わんばかりに、白い影を引き裂きながらじわじわと近づいてきた。
そしてその瞬間、タカシの視界は闇に包まれた。
最後の朝
翌朝、タカシは冷たい床の上で目を覚ました。疲労感と重い胸の痛みを感じながら、ゆっくりと起き上がる。だが、鏡を見た瞬間、彼は凍りついた。
タカシの背後に、うっすらとした黒い影が映り込んでいたのだ。白い影は、もうどこにも見当たらなかった。
――それ以来、タカシは「黒い影」を背負ったまま生きている。誰もそれに気づかないが、彼は自分の背後で、いつもあの足音を聞いている。
「トン……トン……」
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