それは、私が一人暮らしを始めたばかりの頃の話だ。新しい生活に少しずつ慣れ始めたある日、私はふとした違和感に気づいた。
「……この部屋、なんだか変だな」
部屋は綺麗で、家電も新品。最初の印象は良かったのに、住んでいくうちに無機質な空気が漂っていることに気がついた。まるで、人の温度がこの部屋からすっぽり抜け落ちているような感じだった。
それでも、私は気にしないようにしていた。きっと慣れの問題だと思い込もうとしたのだ。
ある日の夜、部屋でくつろいでいると、スマートスピーカーが突然、何も命令していないのに応答し始めた。
「……こちらの情報をお探しですか?」
「え?」
私は驚いてスマホを確認したが、何も操作していない。スピーカーの反応はおかしいが、たまにこういうことがあると聞いていたので、それほど気にせず寝ることにした。
しかし、それからというもの、スマートスピーカーの奇妙な反応が増えていった。
「照明を消しますか?」
「音楽を再生しますか?」
深夜、私はベッドの中で、スピーカーの無機質な声が何度も繰り返されるのを聞いた。命令もしていないのに。まるで誰かが私の代わりに命令を出しているかのようだった。
ある日、スピーカーを無視して眠りにつこうとした時、それはとうとう奇妙なことを言い始めた。
「いま、あなたの後ろにいます」
その瞬間、私は全身に寒気が走った。
「……誰が、いるって……?」
息を呑んで、ゆっくりと振り返った。しかし、何もいない。部屋は薄暗く、ただ私とスマートスピーカーだけが静まり返っていた。
「これ、バグだよな……?」
そう自分に言い聞かせ、スピーカーの電源を抜こうと手を伸ばした。その時――
スピーカーが、再び応答した。
「見えていないだけです」
私は恐怖で一瞬動けなくなった。スピーカーは完全に電源が切れたはずなのに、今の声はどこから聞こえたのか? まるで空間そのものが話しかけているかのようだった。
無機質で感情のないその声が、どこかから響いていた。
それから、私はスピーカーも家電も、できる限り電源を全て切って眠ろうとした。しかし、その夜も――
「照明を消しますか?」
というあの無機質な声が、耳元で微かに聞こえた。
あれ以来、私はその部屋を出た。原因は分からないままだ。
ただ、時々――
他の場所でも、何かが話しかけてくるような気配を感じるのだ。まるで、無機質な何かが私をずっと見ているかのように。
■おすすめ
マンガ無料立ち読み
1冊115円のDMMコミックレンタル!
人気の漫画が32000冊以上読み放題【スキマ】
ロリポップ!
ムームーサーバー
新作続々追加!オーディオブック聴くなら - audiobook.jp
新品価格 |
ページをめくってゾッとする 1分で読める怖い話 [ 池田書店編集部 ] 価格:1078円 |