それはある夏の夜のことでした。釣り好きの私は、静かな海で一人きりの時間を楽しもうと、人気のない岬の先端に向かいました。夜釣りは静寂に包まれ、海のさざなみとリールの音だけが響き、心が落ち着く瞬間がたまらなく好きでした。
その日も風は穏やかで、絶好の釣り日和でした。海面は暗闇に溶け込み、遠くで灯台の光がぼんやり瞬いています。私は仕掛けをセットし、のんびりと釣り糸を垂らしました。時間が経つにつれ、辺りはますます静かになり、聞こえてくるのは波の音と風のざわめきだけ。だんだん眠気が襲ってきたので、イスに深く腰かけながら海をぼんやり眺めていました。
その時です。突然、釣り竿がぐっと引っ張られました。慌てて竿を握り直し、リールを巻こうとしますが、相手はとても重く、異様な手応えがありました。「大物かもしれない…」と胸が高鳴ります。ですが、巻けば巻くほど違和感が募っていきました。何か妙な感触が伝わってきます――それは、まるで魚ではなく、何か「別のもの」に引っ張られているような感覚でした。
重いものが徐々に上がってくる気配がして、私はその正体を確かめようと海面を凝視しました。すると、暗い水面の中からゆっくりと人影のようなものが浮かび上がってきたのです。それは――人の頭でした。髪が水中でゆらゆらと揺れ、白い顔がこちらを向いていました。目が開かれたまま、まっすぐに私を見つめています。
恐怖で息が詰まり、私は釣り竿を手放しました。竿は海面に落ち、そのままゆっくりと沈んでいきます。足がすくんで動けなくなった私の目の前で、その顔はじっと私を見つめたまま、ゆっくりと海の中へと戻っていきました。
慌てて立ち上がり、荷物もそのままにして私は逃げるようにその場を去りました。車に乗り込むと、震える手でエンジンをかけ、一気にその岬を後にしました。心臓は激しく脈打ち、頭の中にはあの白い顔が焼き付いて離れません。
あの時、釣り針にかかっていたのは、果たして何だったのか――あのまま引き上げていたら、私は今ここにいるだろうか。考えるたびに背筋が凍るのです。
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