ある夏の夜、私はいつものように一人で夜釣りに出かけました。人気のない港から離れた岩場は静かで、夜の海には神秘的な雰囲気が漂っていました。波の音と時折吹く風の音しか聞こえず、心を落ち着かせながら釣りを楽しんでいました。
海の様子も穏やかで、いい魚が釣れそうな予感がしました。しばらくすると、突然リールに重みを感じました。「これは大物だ」と期待して巻き上げます。しかし、針にかかっていたのは魚ではなく、小さな布で包まれた「お守り」でした。古びた紐でしっかり結ばれ、海水に浸かっていたせいか、汚れてはいましたが、どこか不気味な雰囲気を漂わせています。
「こんなものが海に落ちてるなんて、誰かが不注意で落としたのかな」と、特に気にせず釣りを続けました。しかし、それから奇妙なことが次々と起こり始めたのです。
最初は風が止んだことに気づきました。ついさっきまでそよいでいた潮風が急に止み、海が不気味なほど静まり返ったのです。まるで世界が一瞬で凍りついたかのような、異様な静けさ。次の瞬間、海面にぽつぽつと水音が立ちはじめました。振り返っても何も見えないのに、誰かが水の上を歩いているような音が遠くから近づいてくるのです。
嫌な予感がして、すぐに荷物をまとめようとしましたが、急に手元の釣り竿が重くなりました。「また何か引っかかったのか?」と思いながらリールを巻き上げると――針にかかっていたのは、先ほど釣り上げた「お守り」とまったく同じものだったのです。さっき確かに岩場の隅に置いたはずなのに、どうしてまたここに? 混乱しながらも、私はそのお守りを今度こそ海へと投げ捨てました。
ところが、その瞬間、後ろから「ザブン」という大きな音がしました。振り向くと、海面が不自然に泡立ち、まるで何か巨大なものが水中から這い上がろうとしているかのように波が渦を巻いています。
それと同時に、足元でざらっと音がして、視線を下に落とすと、釣り座に置いたバケツの中で何匹もの魚が口をぱくぱくさせていました――その魚たちの目が、全てこちらをじっと見つめていました。ただの偶然だとは思えない。そして、ふと目をそらすとその視線の先には、投げ捨てたはずのお守りが、再び私の足元に転がっていたのです。
恐怖で頭が真っ白になり、私は道具も放り出してその場から逃げ出しました。走りながら振り返ると、海は不気味なほど静かで、まるで何事もなかったかのように穏やかな波をたたえていました。しかし、その夜以来、奇妙な出来事が続きました。夜になると必ずあの海の水音が耳に蘇り、誰もいないはずの場所で足音が聞こえるようになったのです。そして、何より怖いのは――家の中で何度もあのお守りを見つけるようになったことです。
捨てても捨てても、気づけば枕元や玄関先に転がっているお守り。そのたびに寒気が走り、心臓が握りつぶされるような恐怖に襲われます。
あの夜、私は一体「何」を釣り上げてしまったのでしょうか。そして、このお守りはどこから来たのか――それを知るのが恐ろしく、いまだに私はあの出来事を誰にも話せていません。もう二度と夜の海には近づかないと誓っていますが、果たしてこのお守りから逃れられる日が来るのでしょうか。
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