夜釣りが趣味の私は、仕事が終わるとよく人気のない岬に向かいます。そこはいつも静かで、誰もいないのが気に入っていました。波の音を聞きながらひとりで釣り糸を垂らしていると、日常の疲れも忘れられます。
しかし、その日は少し様子が違いました。いつもなら私一人のはずが、既に岬の先端に誰かが先に釣りをしていたのです。私と同じように夜釣りを楽しんでいる釣り人のようでした。邪魔にならないよう、少し離れた場所に釣り座を構え、道具を広げて釣りを始めました。
海は穏やかで風も心地よく、良い時間が過ごせそうな予感がしました。しかし、気になったのは、その釣り人の様子です。ちらりと様子を伺うと、微動だにせず、ただじっと海を見ているようでした。糸を巻き上げる様子もなく、まるで時間が止まったかのように何も動かない。その姿に、どこか不気味なものを感じましたが、あまり気にせず自分の釣りに集中することにしました。
しかし、海の様子も釣果も悪く、その日は一匹も釣れません。時間が経つにつれ、気持ちが焦り始めますが、それでも釣れない。とうとう諦めて釣りを切り上げることにしました。荷物を片付け、最後にもう一度海を見渡してから車に戻ろうとしたその瞬間――
先ほどの釣り人が立ち上がっていました。
微動だにしなかったはずなのに、いつの間に立ち上がったのか。心臓が嫌な予感に締め付けられます。そして、その姿がこちらに向いていることに気づいた瞬間、全身に鳥肌が立ちました。
暗闇の中、その釣り人はじっとこちらを見つめています。顔ははっきり見えませんが、目だけが妙に浮かび上がっているように見えました。その不自然さに「これは生きた人間ではない」と直感しました。次の瞬間――
その人が突然、ものすごい勢いでこちらに向かって走り出したのです。
「やばい!」という思いで、全力で車に向かって走り出しました。背後からは、ザッザッと足音が追いかけてきます。息が乱れ、心臓が破れそうなほど鼓動が早くなる中、なんとか車に飛び乗り、震える手で鍵を差し込みました。
エンジンをかけると、私は無我夢中でアクセルを踏みました。
踏むと同時にちらっとバックミラーを見ると、そこには――先ほどの釣り人の立っている姿がうつっていました。
私が車で逃げ去る方向をじっと見つめ、その顔は怒りと憎しみが入り混じった凄まじい形相を浮かべています。口が何かを言いたげに動いていましたが、遠すぎて聞こえません。
あの人が何者だったのか、なぜ私を追いかけてきたのか――今も分かりません。ただ、もう二度とあの岬には行かないと心に誓いました。
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