僕のクラスでいつからか、奇妙な噂が広まり始めた。それは「異世界へ行く方法」についてだった。誰が言い始めたのかは分からない。ただ、いつの間にかクラス中でその話が囁かれるようになった。
「夜の12時ちょうどに、鏡の前で呪文を唱えると、異世界に行けるんだって」
そんな内容だった。最初はみんな笑いながら面白半分に話していた。でも、次第に興味を持ち始める子が増えた。「本当にできるのかな?」と、試そうとする子も現れた。
そしてある日、クラスメイトのタケルが、放課後にみんなの前で言い出したんだ。
「俺、今日それ試してみるよ。帰ったらやってみる!」
みんなは「本当にやるの?」と驚きつつも、半信半疑だった。でも、タケルは真剣な顔をしていて、僕には冗談じゃないことが分かった。
次の日の朝、教室に入るといつもよりもざわついていた。何があったのかと思っていると、朝のホームルームで先生が深刻な顔で言った。
「みんな、落ち着いて聞いてください。タケル君が、昨夜から行方不明になっています。もし何か知っている人がいたら、すぐに教えてください」
教室は一瞬、静まり返った。みんな顔を見合わせ、誰もが同じことを考えていた。「異世界へ行く方法を試したんじゃないか?」と。
その沈黙を破ったのは、クラスの中でもタケルと仲が良かったケンだった。
「タケルは異世界に行ったんだ、きっと。だから、俺が助けに行く。異世界へ行く方法をやって、タケルを連れ戻してくる」
ケンの言葉にみんなは驚き、クラス中がざわめいた。異世界なんてただの噂だ、現実にそんなことがあるはずない。けれど、タケルの行方不明が実際に起きたことで、クラスの空気は変わっていた。誰もが、もしかしたらと思い始めていた。
放課後、親友のユウキが僕に話しかけてきた。
「俺も、ケンと一緒にタケルを助けに行こうかと思ってるんだ。どう思う?」
ユウキの真剣な顔を見て、僕は冷たい言葉を吐いた。
「やめておこう、絶対に。そんなのバカバカしいよ。タケルだって、きっとどこかで迷子になってるだけなんだ。異世界なんて、本当にあるはずないじゃないか」
僕の言葉に、ユウキは少し寂しそうな顔をしたけれど、「そうだな…」と静かにうなずいて、話はそこで終わった。
だが、翌朝のホームルームで、再び先生から衝撃的なニュースが告げられた。
「ケン君も行方不明になりました。今、警察が捜査を進めていますが、皆さんも何か気づいたことがあったら教えてください」
教室は再び重たい空気に包まれた。タケルに続いて、ケンまでいなくなった。これがただの偶然だとは思えなかった。噂はすぐに広まり、クラスメイトたちは囁き始めた。
「やっぱり、ケンも異世界に行ったんだ…」
そして、ユウキが再び僕のもとにやってきた。
「俺も、もしかしたら助けに行ったほうがいいんじゃないかって思うんだ。ケンもタケルも、もう帰ってこないかもしれない。でも、俺が行けば…」
ユウキの決意は固そうだった。でも、僕はそれでも言った。
「やめておけよ、ユウキ。君までいなくなったら、どうするんだ。タケルもケンも、異世界になんて行ってない。僕たちが知らないだけで、どこかにいるんだよ。だから…絶対にやめておけ」
僕の言葉にユウキはしばらく黙っていたが、最終的には「わかったよ」と言ってくれた。ほっとした僕は、その日はそのまま帰宅した。
その後、タケルもケンも見つかることはなかった。警察も親たちも必死に探していたが、どんなに捜査を進めても二人の手がかりは見つからない。やがて、大人たちの間では「人さらいに遭ったのではないか」とか、「どこかで事故に遭ったのでは」といった憶測が飛び交うようになった。
だけど、僕らクラスの子どもたちは知っていた。いや、少なくとも信じていた。二人は異世界へ行ってしまったのだ、と。彼らが噂に挑み、本当に別の世界へ消えてしまったのだと。
本当に異世界なんてものがあるのか、それは今でも分からない。でも、タケルとケンが二度と戻ってこなかったことは確かだ。そして、あのとき僕がユウキを止めたことは間違いなかったと今でも信じている。彼もまた、異世界へ行ってしまっていたかもしれないのだから。
それ以来、僕たちのクラスで「異世界へ行く方法」の話をすることはなくなった。でも、ふとした瞬間に考えてしまう。あの噂は本当だったのだろうかと。
もし、本当なら――あの二人は、今どこにいるのだろう。
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