ある日、僕たちのクラスで、誰が言い出したのか分からない奇妙な噂が広まり始めた。
それは、「異世界へ行く方法」というものだった。
その方法は、真夜中に特定の手順を踏むというもの。窓に向かって何かを唱えたり、決まった時間に鏡を使うなど、複雑で少し怖い内容だった。でも、クラスの中にはその話を本気で信じる子がいて、「もし試したら、本当に異世界に行けるんだ」と興奮気味に話していた。
その中でも特に興味を示していたのが、クラスメイトのタカシだった。タカシは不思議な話や冒険が大好きで、「僕、今日の夜にやってみるよ!」とみんなの前で言い切った。冗談だと思う子もいれば、面白がる子もいたけれど、僕はなんだか不安な気持ちがした。タカシは本当にやりそうだったからだ。
翌朝、学校に行くと、教室はざわざわとしていた。先生が真剣な表情で教壇に立ち、言った。
「タカシくんが行方不明になったそうです。お家に帰っていないとのことです」
一瞬、クラス中が静まり返り、それから騒然となった。先生は「何か知っている人がいたら教えてほしい」と言ったけれど、誰も何も言えなかった。僕は、昨日タカシが言っていた「異世界へ行く」という話が頭をよぎり、背中に冷たいものが走った。まさか、本当にやってしまったのか?
その日の放課後、クラスメイトの一人、ケンジが興奮気味に言った。
「タカシは、きっと異世界に行っちゃったんだ。だから、僕が助けに行くよ!」
僕はケンジをじっと見つめた。冗談を言っているようには見えなかった。彼の目は本気そのもので、怖いくらいだった。
その夜、親友のユウキが僕の家にやってきた。彼もタカシのことが気になっていたらしく、ケンジの話を聞いてこう言った。
「俺も、タカシを助けに行こうかな。放っておけないだろ?」
僕は思わず、ユウキの肩を掴んで言った。
「絶対にやめておけ。」
ユウキは驚いた顔をしたけれど、僕は続けた。
「タカシも戻ってこないんだぞ? ケンジだって、どうなるか分からない。冷たいように聞こえるかもしれないけど……こんなこと、絶対にやっちゃダメだ。」
ユウキは少し考え込んだ後、渋々「分かったよ」と言って帰っていった。僕はホッとしたけれど、不安は消えなかった。
しかし、次の日の朝、また教室がざわついていた。先生が教壇に立ち、重苦しい声で言った。
「ケンジくんも、行方不明になったそうです」
クラスは騒然とし、みんなが動揺していた。先生も、どうしてこんなことが続くのか分からないという顔をしていた。大人たちの間では「人さらいではないか」とか、「誘拐事件かもしれない」といった話もあったらしいけど、どこか噛み合わない気がした。
僕は黙ってその話を聞いていた。ケンジも戻ってこない――まるで、あの「異世界へ行く方法」が本当だったかのように。
それからしばらく、先生も親も心配して、僕たちに「一人で行動しないように」と何度も注意した。ユウキも、ケンジの件を聞いてからは「俺も行かなくてよかった」と言っていたけど、その言葉の裏にはどこか後悔が混じっているように思えた。
結局、タカシもケンジも、二度と帰ってくることはなかった。あの夜、二人は本当に「異世界」に行ってしまったのだろうか? それとも、ただの偶然が重なっただけなのだろうか?
僕には分からない。ただ一つ確かなのは、あの「異世界へ行く方法」は、絶対に試してはいけないものだったのかもしれない、ということだ。
そう考えると、今でもあの時の冷たい感覚が背筋に蘇ってくる。もし僕があの時、ユウキを止めなかったら――きっと、彼も帰ってこなかったに違いない。
そして今も、心のどこかで思ってしまうのだ。
「異世界へ行く方法」は、本当にあったのだろうか?
■おすすめ
マンガ無料立ち読み
1冊115円のDMMコミックレンタル!
人気の漫画が32000冊以上読み放題【スキマ】
ロリポップ!
ムームーサーバー
新作続々追加!オーディオブック聴くなら - audiobook.jp
新品価格 |
ページをめくってゾッとする 1分で読める怖い話 [ 池田書店編集部 ] 価格:1078円 |