怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

一人暮らしの部屋で聞こえる音 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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大学進学を機に、僕は実家を離れて一人暮らしを始めた。引っ越してきたのは、駅から少し離れた古いアパート。築年数は経っているが、家賃が安くて広めの部屋だったので迷わず決めた。

初めての一人暮らしは自由で気楽なものだった。誰にも気を遣わず、夜遅くまでゲームをしたり、好きな時間に寝たりと、毎日が快適だった。

ところが――引っ越して数日が経った頃から、部屋の中で妙な音がするようになった。

それは夜になると決まって聞こえてきた。ベッドに入って寝ようとすると、リビングのほうからカタ……カタ……という音が微かに響く。最初は「隣の住人の音かな?」と思ったが、次第にその音が部屋の中から聞こえているような気がしてきた。

僕は布団をかぶり、気にしないようにした。風のせいかもしれないし、気のせいだと思い込むことで、なんとか眠りについた。

次の日も、その次の日も、深夜になると同じ音が聞こえた。音はどこか規則的で、何かが揺れたり、ぶつかったりするような響きだ。

「何の音だろう……」

不安になりながらも、ある夜、ついに音の正体を確かめることにした。ベッドからそっと抜け出し、静かにリビングのドアを開けた。

すると――そこには、何もなかった。

テーブルの上のものも何ひとつ動いていない。カーテンも閉まっていて、窓の外に人の気配もない。特に異変は見当たらなかったが、そのまま布団に戻っても、再びあのカタ……カタ……という音が耳に響く。まるで、僕が部屋に戻ったのを見計らったかのようだった。

そして、ある夜――その音は突然変わった。

深夜2時過ぎ、いつものように寝ようとしていると、今度はカタカタという音に加え、「ゴトッ」と何かが落ちるような音が響いた。慌ててリビングの電気をつけに行くと、テーブルの上に置いてあったコップが倒れていた。

「……風で倒れたのか?」

しかし、窓も閉まっているし、カーテンもピクリとも動いていない。ますます不気味になりながらも、結局その夜も原因が分からず、布団に戻った。

次の日、ついに本格的な恐怖が訪れた。

その夜、いつものように寝ていると、今度は玄関のほうでガサガサと何かが動く音が聞こえてきた。心臓が早鐘を打ち、体が硬直する。誰かが家の中に入ってきたのではないか――そんな考えが頭をよぎった。

僕はスマホを手に取り、部屋の電気をつけないまま、そっと布団から抜け出した。忍び足で玄関に近づくと、そこで確かに人の気配を感じた。

「……誰かいる?」

震える声で問いかけるが、返事はない。しかし、耳を澄ますと――玄関のドアノブがゆっくりと回る音が聞こえた。

その瞬間、背筋が凍りついた。慌てて玄関のドアを開けたが、そこには誰もいなかった。廊下は静まり返り、他の部屋も明かりが消えている。

怖くなった僕は、そのまま部屋に戻り、鍵を二重にかけた。それでも、しばらく心臓がバクバク鳴って止まらない。

その夜、布団にくるまり、なんとか眠ろうとすると――耳元で囁くような音が聞こえた。

「……ここにいるよ……」

その瞬間、僕は金縛りにあったかのように動けなくなった。部屋は誰もいないはずなのに、確かに耳元でその声を聞いた。

翌朝、僕は慌てて引っ越しを決意した。それからすぐに新しい部屋を探し、引っ越しを済ませたが、あの部屋のことを思い出すと今でも背筋が寒くなる。

あの音と囁きは一体何だったのか――。もう二度と確かめる気にはなれない。



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