診察室には穏やかな空気が流れていたが、目の前の女性は明らかに不安な表情を浮かべていた。質問を一通り終えた後、彼女はためらいながら口を開いた。
「先生、最近、すごく変な夢を見たんです。なんだか不安になって……。」
私は彼女の言葉に興味を持ち、優しく促した。
「どんな夢だったんですか?教えてください。」
彼女は深く息を吐き、夢の内容を語り始めた。
「夢の中で、私は友達と出かける約束をしているんです。それで、服を着替えようと思ってクローゼットを開けようとするんですけど……どうしても扉が開けられなくて。」
私はその奇妙な状況に焦点を当てて、さらに聞いた。
「開けられないというのは、何か特別な理由があったんですか?」
「理由なんてないんです。ただ……『開けちゃいけない』っていう妙な感覚がずっとあるんです。夢の中で、私自身も『何で開けられないんだろう』って思ってるんですけど……手が動かなくなるというか、体が固まっちゃって。扉に触れることすら怖いんです。」
彼女の声には、夢の中で感じた強い恐怖がにじみ出ていた。
「クローゼットの扉を開けようとした時、どんな感情が湧いてきましたか?」
「すごく怖かったんです。中にあるのは服やバックのはずなのに、『これを開けたらとんでもないことになる』って直感で感じてしまうんです。おかしいですよね……いつも使ってるクローゼットなのに。」
彼女は首をかしげながら、その不思議な感覚を振り返った。
「その夢の中で、どうやってその状況から抜け出そうとしましたか?」
「何度も『大丈夫、大丈夫』って自分に言い聞かせたんですけど、どうしても怖くてダメでした。友達との約束があるのに、着替えられないっていう焦りもあって、余計にパニックになっていくんです。クローゼットを開けられないまま、時間だけがどんどん過ぎていって……。」
彼女はその時の絶望感を思い出し、肩をすくめた。
「その夢の中で、クローゼットを開けることが特別な意味を持っていたように感じましたか?」
「そうですね……開けられないっていうことが、自分の中で何か大きな問題を象徴しているような気がしました。現実でも、最近色々とため込んでしまっている感覚があるんです。もしかしたら、その気持ちが夢の中でクローゼットになっていたのかもしれないですね……。」
彼女の声には、自分の内面を少しずつ理解し始める様子が伺えた。
私は彼女の夢が、無意識の不安や抱え込んだ問題を象徴している可能性があると感じ、言葉を慎重に選んで話しかけた。
「クローゼットを開けられないというのは、あなたが現実で何か大きな不安や問題に向き合うのをためらっている感覚を反映しているのかもしれませんね。最近、何かを後回しにしているように感じたことはありませんか?」
彼女はしばらく考え込んでから、静かに答えた。
「はい……実は、仕事のことでずっと悩んでいるんです。でも、その問題に向き合うのが怖くて、つい放置してしまっていて。もしかしたら、その気持ちが夢の中で『開けられないクローゼット』として出てきているのかもしれないですね……。」
診察室を後にする彼女を見送りながら、私はその夢が彼女の心の中にある不安や向き合えない感情を映し出しているのだろうと感じた。クローゼットの扉――それは彼女が今避けている何か、大切なものと向き合うための象徴なのかもしれない。彼女がその扉を開き、自分の心にある問題を解き放つ日が来ることを願っていた。
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