目次
廃墟への誘い
ユウタと友人のケンジは、ある週末に山奥の廃墟を訪れることにした。ネットで「心霊スポット」として有名なその場所は、かつてはリゾート施設だったらしいが、今は誰も寄り付かない廃墟となっている。
「マジでここ行くの?」と不安そうなケンジに、ユウタは笑って答えた。
「ただの噂だろ? ちょっと探検してみようぜ。」
彼らは懐中電灯を片手に廃墟の奥へと足を踏み入れた。
不気味な建物
廃墟は外観からして異様だった。窓ガラスはほとんどが割れ、壁には長い年月を経たような黒い汚れがこびりついている。外壁は一部崩れており、風が通るたびに「ヒュウ……」と不気味な音が響く。
入り口の扉は、かろうじて傾きながらも開いており、二人はそこから中に入った。
「……広いな。」
館内は、かつての豪華さの残骸がところどころに見える。錆びついたシャンデリア、倒れた家具、そして廊下の奥へと続く闇――それらが、静寂と共に二人を迎え入れた。
「おい、ヤバそうな気がするから、あんまり奥に行くのはやめようぜ。」
ケンジがそう言うが、ユウタは面白がってどんどん進んでいく。
「大丈夫だって、何も出やしないさ。」
だが、ユウタが次の角を曲がった瞬間、二人は――不気味な異変に気づくことになる。
奇妙な部屋
廊下の先に、古びた扉があった。開け放たれた扉の向こうには、広い部屋が広がっていたが、その部屋には何か「違和感」があった。
――家具がすべて逆さまになっている。
テーブルも椅子も、棚も、まるで重力を無視したかのように天井に張り付いているのだ。カーペットは逆さまに垂れ下がり、まるで蜘蛛の巣のように揺れている。
「……どうなってんだ、これ?」
ケンジは声を震わせながら後ずさり、ユウタも言葉を失った。だが、異様なのは家具だけではなかった。
――壁には、人影のような跡がいくつも残されていた。
まるで何かがここで消え去ったかのように、無数の人の輪郭が壁に染みついている。
「なんだこれ……こんなとこ、さっさと帰ろうぜ!」
ケンジはユウタの腕を引っ張り、廊下へ戻ろうとした。しかし、その時――
――バタン!
扉が音を立てて閉じた。
出口が消える
二人は慌てて扉を開けようとする。扉を開けたところ、さらにおかしいことに、さっきまで入ってきたはずの廊下が、今ではどこにも見当たらなかった。
代わりに、目の前にはまったく同じ部屋がもう一つ広がっていた。
「……おい、どうなってんだよ? さっきの部屋と同じじゃないか?」
不安に駆られる二人は、再び部屋を抜けて廊下へ出ようとするが、扉を開けるたびに同じ部屋が繰り返される。逆さまの家具、壁の人影、そして湿った空気――それが延々と続くのだ。
「これ、マズいぞ……どこまで行っても同じ部屋だ……」
二人の足音だけが響く中、焦りはピークに達していく。しかし、どれだけ歩いても、出口は一向に見つからない。
足音が増えていく
突然、二人の足音に混じって、別の足音が聞こえ始めた。
「……誰か、いるのか?」
ユウタが懐中電灯で辺りを照らすが、誰の姿も見えない。しかし、その足音は徐々に近づいてきている。
――トン……トン……
その音は、明らかに二人を追いかけている。慌てて部屋の奥へと逃げるが、どこに行っても同じ部屋が続くだけだ。
「くそっ! どこにも逃げられない!」
ケンジが叫んだ瞬間、壁の人影の跡が、わずかに動いたのをユウタは見た。
「……動いた……?」
その時、背後で聞こえていた足音が、ピタリと止まった。
最後の部屋
二人が次の扉を開けると、ようやく違う部屋に辿り着いた。そこには何もない、がらんどうの空間が広がっていた。ただ一つ、部屋の中央にだけ、古びた鏡が置かれている。
「これ……鏡?」
ユウタが恐る恐る鏡を覗き込むと――鏡の中の自分が、微かに笑った。
「……おい、今……鏡の中の俺、笑ってたか?」
「何言ってんだ……?」
ケンジが困惑する中、突然、鏡の表面がゆっくりとひび割れ始めた。
――パキ……パキ……
鏡の中の自分の姿が歪み、その影がまるで鏡から這い出そうとしているように見えた瞬間――
「逃げろ!!」
ユウタは必死にケンジの腕を引っ張り、再び扉を開けて部屋を飛び出した。
廃墟からの脱出
気づけば、二人は廊下に立っていた。振り返ると、今まで何度も繰り返されていた逆さまの部屋は消え、ただの荒れ果てた廃墟の一室が残っているだけだった。
二人は恐怖に駆られながら廃墟を飛び出し、一目散に駐車場まで走った。車に乗り込んだ時、ようやく二人は息をついた。
「……なんだったんだ、あの部屋……」
ケンジは震える声で呟いたが、ユウタは答えなかった。彼の視線は、車のサイドミラーに釘付けになっていた。
――サイドミラーの中で、先ほどの廃墟の扉がゆっくりと閉まるのが見えたのだ。
そしてその扉の隙間から、何かがこちらを見ていた――
それは、鏡の中で笑った自分の姿だった。
その日以来、ユウタは鏡を見るのが怖くなった。時折、彼は部屋の鏡の中に、あの日の自分が映っているのではないかと感じることがある。
――もしかしたら、自分自身はあの廃墟に置き去りにされてしまったのかもしれない……。
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