目次
忘れられた集落
大学生のヒロシと友人たちは、夏休みのある夜、ネットで見つけた心霊スポットに行くことになった。
「田舎の山奥にある廃病院だってさ。誰も住んでない集落にポツンとあるんだと。」
そんな噂を見つけ、怖いもの見たさと暇つぶしでヒロシたちは車に乗り込んだ。
目的地は、地図にもはっきり載っていない山間の廃れた集落。かつては病院を中心に人々が暮らしていたが、原因不明の疫病が広がり、人々は次々と町を離れてしまった――というのが噂だった。
夜の山道を抜け、森に包まれた集落にたどり着いた時、あたりはすでに真っ暗になっていた。街灯もなく、月明かりだけが細々と照らしている。
「ここが例の集落か……」
人気のない家々が並び、窓や屋根は崩れかけ、風が木々を揺らしているだけ。まるで時間が止まったような静寂があたりに満ちている。
そして、集落の奥に、黒ずんだ廃病院が不気味にそびえ立っていた。
廃病院の探索
「うわ、ガチでヤバそうな場所だな……」
一瞬怯んだものの、ヒロシたちはせっかく来たからにはと、病院の中に入ることにした。
入口のドアは壊れ、わずかに開いている。懐中電灯を頼りに中へ足を踏み入れると、カビと薬品が混ざったような臭いが鼻を突いた。
ロビーの壁はひび割れ、受付カウンターには散らばったカルテの残骸。床には古いストレッチャーが放置されており、錆びついた車輪が微かに揺れていた。
「……マジでやばくない?」
一人がそう呟くが、誰も帰ろうとは言い出せなかった。肝試し気分で来たものの、誰もが得体の知れない重苦しい空気を感じていた。
「じゃあ、1階は見たし、2階行ってみるか?」
ヒロシの提案に、皆が渋々頷く。
2階での異変
階段を上ると、2階の廊下はさらに荒れていた。病室の扉はどれも開け放たれ、ベッドのマットレスは剥がれ、床に散乱している。壁には何かが引きずられたような跡が、黒ずんだ線になって残されていた。
その時――廊下の奥から、微かな音が聞こえた。
「カタ……カタ……」
「今の……何だ?」
一人が声を潜める。全員が動きを止め、耳を澄ませた。
――「カタ……カタ……」
音は、何かが床をゆっくりと引きずるような音だった。誰かの悪ふざけかと思い、ヒロシは振り返ったが、仲間は全員その場にいた。
「おい……本当に誰も動いてないよな?」
全員が固唾を呑んで見守る中、音はだんだんと彼らに近づいてくる。
「ヤバい……これ、ヤバくないか?」
誰かが震えた声で言った瞬間――
――ギィィ……
奥の病室の扉が、勝手にゆっくりと開いた。
病室の中の影
恐る恐る、開いた病室の中を懐中電灯で照らす。だが、そこには何もいない。古びたベッドと倒れた点滴スタンドがあるだけだ。
「気のせいか……?」
皆がほっとした瞬間――。
――カタッ……
今度はベッドの下から音がした。
ヒロシが震える手でベッドの下を照らすと――そこに見えたのは、何かの影。
人間のような……だが、異様に細く長い体が、まるで這うようにして隠れているのが見えた。
その影が、突然こちらを向き――じっと覗き込むように、目だけがこちらを見た。
「――っ!」
悲鳴を上げる暇もなく、全員が一斉に走り出した。
逃げ場のない出口
ヒロシたちはパニック状態で階段を駆け下り、1階の出口に向かった。しかし、開いていたはずの玄関の扉が、なぜか固く閉ざされている。
「開かない! 開かないぞ!」
扉を必死に押しても、引いても、びくともしない。
その時――背後の廊下から、再び音が響いてきた。
――「カタ……カタ……」
今度の音は、はっきりとした足音だった。それも一つではない。まるで、何人もの人が歩いてくるかのように、不規則な足音が近づいてくる。
「……これ、まずい……!」
震えながら振り返ると――廊下の奥に黒い影が何体も立っていた。
ぼんやりと人間の形をしているが、顔も手足も曖昧で、まるで闇そのものが人の形を取っているようだった。
それらの影は、ゆっくりと、音もなくヒロシたちに近づいてくる。
最後の出口
「窓だ……!」
一人が叫び、窓ガラスを割ろうとするが、錆びた鉄格子が邪魔をして外に出られない。
「くそ、どうすれば……!」
追い詰められた彼らは、息も絶え絶えに廊下の奥へと逃げ込んだ。その先に、非常口のマークがかすかに見える――。
「……出口だ……!」
ヒロシは思いっきり非常口の扉を押した。扉は、すんなりと開いた。
外に飛び出した瞬間、彼らは新鮮な夜風を浴び、狂ったように走り出した。集落を抜けると同時に、廃病院は闇の中に溶け込み、見えなくなった。
消えた集落
翌朝、ヒロシたちは再びあの集落を探そうとしたが――どれだけ地図を見ても、その場所は見つからなかった。
「あの病院、どこにあったんだ?」
ヒロシたちは不安に駆られ、地元の人にも聞いてみたが、誰もその集落のことを知らなかった。
「そんな集落も病院も、聞いたことがないな……」
まるで、あの夜の出来事が幻だったかのように。
だが、ヒロシたちは確かに――あの廃病院で、何かに見られていた。
そして今も時折、彼らの耳には、あのときの足音が聞こえる気がするのだ。
――「カタ……カタ……」
それが、どこか自分たちのすぐ後ろで聞こえるたびに。
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