目次
集落への旅
大学生のタカシは、友人3人と共に、山奥の小さな集落に旅行へやって来た。目的は、ネットの噂で見つけた「心霊スポット巡り」だった。その集落には、かつての隔離病棟――サナトリウムの廃病院があるという話を聞き、興味本位で訪れたのだ。
「昔の病院って、なんか不気味だよな……隔離病棟とか、やばくない?」
「怖いけどさ、どんなところか見てみたいじゃん?」
道中の車内でそんな会話を交わし、彼らは集落の古い宿泊施設に泊まることにした。山間の旅館のようなその施設は、風情はあるが少し古びており、チェックインのときに出迎えてくれた中年の女将も、どこか無表情で淡々としているように見えた。
「ところで……あの廃病院の場所って、どこにあるんですか?」
タカシがチェックインの際、何気なく女将に尋ねた。
その瞬間、女将の顔に一瞬の曇りが浮かんだ。
「……あそこですか……?」
「ええ、ちょっと行ってみたくて。」
女将は少しの間、黙っていたが、やがて深いため息をついて答えた。
「病院は、この宿から少し離れた場所にあります。でも、車では行けませんよ。」
「歩いてどれくらいですか?」
「片道で1時間くらいでしょうか。細い山道を歩いていくことになります。でも……あまりお勧めはしません。」
女将はそう言うと、目を伏せた。
「なぜですか?」
「……昔、あそこはサナトリウムだったんです。患者が外に出られないようにするために、病院は山の中の奥深くに建てられていたんですよ。そして……そこで亡くなった人も少なくありません。」
女将の語り口に、不気味な雰囲気が漂う。だが、タカシたちはその話にますます興味をそそられた。
「大丈夫ですよ。心霊スポットって、ちょっと怖いから面白いんです。」
女将はそれ以上何も言わず、苦笑いを浮かべただけだった。
山道を抜けて
翌朝、タカシたちは宿泊施設を出発し、女将に聞いた通りの細い山道を歩いて進んでいった。周囲には鬱蒼とした森が広がり、道はところどころ草が生い茂っていた。人がほとんど通らない道なのだろう。
「うわ、思った以上に遠いな……」
「でも、こういう場所の方が本物っぽいだろ?」
みんなで冗談を言い合いながら歩いているうちに、森の中に古い門が見えてきた。錆びた鉄製の門には「〇〇サナトリウム」と読める文字がかすかに残っている。
「ここか……」
門を抜けると、その先には――病院の廃墟が静かに佇んでいた。
廃病院の内部
病院の建物は、苔むしたコンクリートがむき出しになり、窓ガラスはほとんど割れていた。かつてのサナトリウムは、無機質で冷たい外観のまま、時の流れに取り残されたようだった。
「思ったより、荒れてるな……」
彼らは慎重に中へ足を踏み入れた。
ロビーの床には、ボロボロの雑誌や病院の書類が散乱している。壁には古いポスターが貼られたままで、「感染防止のため外部との接触禁止」といった文字がかすかに読めた。
「ここで隔離されてたんだな……」
仲間の一人が呟く。その言葉に、タカシは一瞬、寒気を覚えた。
――この病院に閉じ込められた人々は、どんな思いで過ごしていたのだろう?
「とりあえず、上の階も見てみるか。」
彼らは2階へと向かう。階段は崩れかけ、手すりは錆びて不安定だったが、慎重に進んでいった。
2階の病室には、まだ古いベッドが並んでいる。そのいくつかには、白いシーツがかぶせられていた。
「これ……人が寝てたまんまじゃないか?」
シーツの上には、うっすらと人の形の痕が残っているように見える。誰かがここで亡くなり、そのまま放置されたのだろうか――そんな不気味な想像が頭をよぎった。
「もういいだろ、さっさと戻ろうぜ……」
不安を覚えた仲間が言うが、タカシは奥の部屋が気になり、そっと扉を開けた。
奥の部屋で
奥の部屋は、一段と古びており、壁には「退院希望」「助けてくれ」と書かれた文字が刻まれていた。
そして、部屋の中央には――車椅子がぽつんと置かれていた。
その車椅子は、まるで誰かが座っていたかのような位置で止まっている。だが、当然そこに人はいない。
「もういい! 出よう!」
誰かが叫び、全員が一斉に病院を飛び出した。
宿泊施設での夕食
必死で山道を駆け戻り、ようやく宿泊施設に戻ってきた頃には、日は暮れかけていた。
夕食の席で、タカシたちは息を整えながら、女将に病院で見たことを話した。
「いやあ、マジでヤバかったですよ! ベッドとか車椅子がそのままで……何かいる感じがしましたよ。」
女将は静かに聞いていたが、やがてポツリと言った。
「……やっぱり、行ってしまったんですね。」
「何か……あの病院、変なことでもあるんですか?」
タカシが尋ねると、女将は少し考え込んだ後、静かに答えた。
「実は、何年か前にも、あの病院に興味本位で行った人たちがいました。でも、彼らの話では――病院に入った覚えはないのに、病室の中の記憶がはっきりと残っていたと言うんです。」
「え……?」
「自分たちは病院の外から引き返したはずなのに、なぜかシーツのかぶったベッドや車椅子のことを、まるで見たかのように話していたそうです。」
タカシたちは顔を見合わせた。確かに、彼らはあの車椅子の部屋に入ったはずだ――だが、その記憶がどこか曖昧に感じられる。
「……気のせい、ですかね?」
タカシがそう呟くと、女将は静かに首を振った。
「気のせいだといいんですが……時々、あそこに行った人が、その後も夢の中で病室に戻ってしまうことがあるそうです。」
そう言った女将の声は、どこか遠く、冷たく響いた――。
その夜、タカシはなかなか眠れなかった。
もし、次に眠ったとき、自分がまたあの病院に戻ってしまったら――そんな考えが頭を離れなかったからだ。
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