それは、ある夏の日のことだった。友人のユウタと僕は、心霊スポット探訪をしようという話になった。
「どうせ夏休みだし、ちょっと怖い場所でも行こうぜ!」
ユウタの提案に乗り、僕たちは近隣の心霊スポットを探し始めた。そして見つけたのが、山奥にある小さな集落の廃病院だった。
ネットの噂によると、その病院は集落の住人たちが通っていたが、ある事件をきっかけに閉鎖されたらしい。病院が取り壊されることもなく、今は放置されたままで、近くの住人も寄り付かないという。
「今夜、その病院に行ってみようぜ」
少し不安だったが、ユウタに押される形で僕も参加することになった。
目次
集落に続く道
病院までは細い山道を車で進んでいく。夜の山は静かすぎて、まるでこの世から切り離されたような不気味さがあった。車のライトに照らされる木々の影が、闇の中で揺れ、異様な雰囲気を漂わせている。
やがて、僕たちは集落にたどり着いた。けれど、そこには人の気配がまったくなかった。
「こんな場所に、本当に病院なんてあるのか?」
そう思った矢先、ユウタが車のライトで照らした先に、ひび割れた看板が見えた。
「……あった! ○○診療所だ!」
看板の文字はかすれていたが、確かにそこには病院があった。廃墟となったその病院は、草木に覆われ、窓ガラスも砕けている。建物全体が湿気を含み、腐ったような匂いが漂っていた。
廃病院の中へ
僕たちは懐中電灯を手に、恐る恐る病院の中へ足を踏み入れた。
建物の内部は、異様に静かだった。廊下には古びたベッドが転がっていて、壁には古いポスターや手書きの貼り紙が残っている。診察室や待合室の椅子も、そのままになっていた。
「……誰もいないよな?」
そう呟いても、誰も答えるはずがない。
床には湿った泥の跡があり、まるで誰かが最近ここを歩いたような痕跡が見える。だが、そんなはずはない――集落にはもう、住人はいないと聞いていたのだから。
「ちょっと、奥まで行ってみようぜ」
ユウタは楽しそうに言い、僕を促した。
奇妙な部屋
廊下の奥を進んでいくと、診察室とは違う、妙に広い部屋にたどり着いた。そこは、病院というよりも倉庫のような場所で、使われなくなった医療機器が無造作に積まれている。
その部屋の隅に、古いストレッチャーがポツンと置かれていた。そのストレッチャーの上には、真っ白な布が掛けられている。
「……なあ、あれ、何だろう?」
嫌な予感がしたが、ユウタは懐中電灯で照らしながら、そのストレッチャーに近づいていく。
「……これ、遺体とかじゃないよな?」
冗談のように言ったユウタが、恐る恐る布をめくろうとした――その瞬間。
謎の足音
コツ……コツ……
どこか遠くから、足音が聞こえた。
僕たちは一瞬で凍りついた。病院の中には僕たち以外に誰もいないはずだ。それなのに――足音が確実に近づいてくる。
「おい……マジでヤバいって」
ユウタが呟き、僕たちはストレッチャーから一歩後ずさった。足音は、まるで廊下の奥からこちらに向かってくるようだった。
「……誰かいる?」
僕は思わず声を出したが、返事はない。だが、足音だけが着実に僕たちに近づいてくる。
病院の住人
足音が止んだのは、僕たちの立っているすぐ近くだった。
誰かがすぐそこにいる――そう感じた瞬間、背筋に冷たいものが走った。
「……逃げよう」
ユウタが小声で言った瞬間、廊下の奥から、まるで何かがこちらをじっと見つめているような気配を感じた。
僕たちは何も見ないまま、その場から一目散に逃げ出した。
外へ
病院から飛び出すと、僕たちは車へ全速力で走った。
後ろを振り返る余裕なんてなかった。ただ、不思議なことに――廃病院の中で聞いた足音は、外に出た瞬間に消えていた。
「おい、もう二度とこんな場所来るもんじゃない!」
ユウタが息を切らしながら叫ぶ。僕も、心の底からそう思った。
後日談
数日後、僕たちはネットでさらにあの廃病院について調べてみた。すると、あの病院ではかつて、患者が不可解な死を遂げる事件が相次いでいたことがわかった。
病院のスタッフも、患者の何人かも、突然理由もなく失踪したという。そして、それ以来――あの病院は廃墟となり、誰も近づかなくなったのだという。
僕たちが病院の中で感じた足音の正体は――一体何だったのだろうか。
今でもあの足音が、病院の廊下を彷徨い続けているのかもしれない。もしかすると――僕たちが逃げたあの日も、何かに見つかる寸前だったのかもしれない。
そう考えると、背中にじっとりとした汗が浮かぶ。
■おすすめ
マンガ無料立ち読み
1冊115円のDMMコミックレンタル!
人気の漫画が32000冊以上読み放題【スキマ】
人気コミック絶賛発売中!【DMMブックス】
ロリポップ!
ムームーサーバー
新作続々追加!オーディオブック聴くなら - audiobook.jp
新品価格 |
ページをめくってゾッとする 1分で読める怖い話 [ 池田書店編集部 ] 価格:1078円 |