目次
新しいアパートでの生活
カズキは一人暮らしを始めたばかりだった。郊外の静かなアパートに引っ越し、最初の数日は部屋の整理に追われていたが、少しずつ生活も落ち着いてきた。家族や友人からもらった写真を飾るために、小さな写真立てを棚の上に並べていた。
その中には、実家で撮った家族写真や、大学時代の友人たちとの集合写真が収まっていた。
「やっぱりこうやって写真を飾ると、部屋が明るくなるな」
彼は嬉しそうに写真立てを眺めながら、友人たちと過ごした思い出を思い出して微笑んだ。
写真立ての異変
引っ越しから数週間後、カズキはある夜、写真立てが倒れていることに気がついた。
「風でも入ったのかな?」
そう思いながら写真立てを元に戻し、特に気にもせずにその日は寝ることにした。しかし、翌日も帰宅すると、また同じ写真立てが倒れていた。
「おかしいな……」
カズキは少し不思議に思ったが、きちんと立て直して棚に置いた。だが、それからも毎晩のように、その写真立てだけが倒れるようになった。
最初は気のせいかと思っていたが、倒れているのはいつも大学時代の集合写真の立てかけだけ。家族写真も、他の写真立ても全く異常はなく、毎回同じ写真立てだけが棚に倒れていた。
不思議な影
ある夜、写真立てが倒れる瞬間を確認しようと、カズキは深夜に部屋の灯りをつけたまま待ち構えた。しばらくしてふと時計を見ると、もう夜中の2時を回っていた。
その時――。
――バタッ。
突然、集合写真の写真立てが音を立てて倒れた。
「……どうしてこれだけが倒れるんだ?」
カズキは少しの恐怖を覚えながら写真立てを見つめた。写真立てを拾い上げ、じっとその写真を見つめると――気のせいか、写真の端に小さな影が写っているのに気がついた。
それは、写真の背景にぼんやりと浮かぶ、人影のようなものだった。
「……こんな影、写ってたっけ?」
彼は不安を覚えつつも、再び写真立てを元の位置に戻して眠りについた。
昔の友人からの電話
翌日、カズキは大学時代の友人、タケルからの着信を受けた。久しぶりに聞く声だったが、タケルの話す内容は、驚くべきものだった。
「……実はさ、大学時代の仲間の一人、ショウが昨日、亡くなったんだよ。」
「え?」
カズキは言葉を失った。ショウは大学時代、同じサークルで一緒に遊んでいた仲間で、集合写真にも写っている人物だった。タケルの話によると、ショウは数日前から突然体調を崩し、容態が急変して亡くなったという。
「まさか、そんなことが……」
電話を切った後、カズキはふと写真立てを見た。そこには、ショウがにこやかに笑顔を見せる集合写真が収まっている。
「……もしかして……」
倒れ続ける写真立てが、ショウの死と何か関係しているのではないか――カズキは背筋が寒くなるのを感じた。
最後のサイン
その夜、カズキは集合写真の写真立てを手に取り、そっと呟いた。
「……ショウ、もしかして、何か伝えたかったのか?」
カズキは不思議な気持ちで、そっと写真立てを棚に戻した。その夜は、久しぶりに写真立てが倒れることもなく、静かな夜が過ぎていった。
だが、翌朝――。
カズキが目を覚ますと、写真立てが静かに倒れているのが見えた。昨夜の静寂が嘘のように、写真立てだけがポツリと倒れていた。
不思議な胸騒ぎを覚えつつ、カズキは写真立てを持ち上げた。すると、写真立ての裏には――
「ありがとう」
と小さく、まるで誰かの手によって書かれたかのような字が浮かんでいた。
その文字は、まるで消えかかるように、薄くかすんで見える。しかし、カズキにはそれが誰の「ありがとう」なのか、はっきりと理解できた。
それ以来、集合写真の写真立てが倒れることは、二度となかった。
カズキは今でも、時折ふとその写真立てを見つめることがある。そして、写真に写るショウの微笑みを見て、心の中で「どういたしまして」と静かに返すのだった。
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