目次
夜の参道
高校生のアキラは、夏休みに祖父母の住む田舎を訪れていた。自然に囲まれたのどかな場所で過ごすのは好きだったが、夜になると街灯もほとんどなく、不気味にさえ感じた。
ある晩、ふとした気まぐれで、近くの山奥にある神社に行ってみることにした。昼間に祖父から聞いた話によれば、村の人たちが「守り神」として崇める古い神社が山の奥にあるらしい。その神社には、「夜にお参りをすると不思議なことが起こる」との言い伝えもあるという。
「ちょっと怖いけど……大丈夫だよな」
アキラは懐中電灯を片手に夜道を歩き始めた。山道の参道には小さな灯篭が並び、その明かりがぼんやりと道を照らしている。
「思ったより暗いな……」
静かな山の中を一人で歩いていると、木々の間から何かが動いたような気配がする。ふと、背後に誰かがいるような感覚がして振り返るが、何も見えない。ただ、月明かりに照らされる木々が揺れているだけだった。
「気のせい……だよな?」
少し緊張しながらも、アキラは足早に神社へと向かった。
神社でのお参り
ようやく鳥居が見えてきた。鳥居をくぐり、手水舎で手を清めると、ひっそりと佇む古びた神社が目の前に現れた。そこは木々に囲まれ、周囲はしんと静まり返っている。
アキラは静かに賽銭を投げ入れ、手を合わせてお参りを始めた。
「無事に楽しく夏休みが過ごせますように……」
そう願いを込めて目を閉じていると、不意に冷たい風が吹き抜け、周囲の温度が一気に下がったように感じた。
「……ん?」
目を開けると、境内に立ち込める靄が濃くなり、神社の景色がぼんやりと揺らいで見える。周囲がまるで別の場所に変わっていくようだった。
そして――。
気づけば、神社の周囲は見たこともない不気味な光景へと変わり果てていた。木々は暗く歪み、周囲には薄暗い赤い光が差し込む異様な空間。
「え……何だ、ここ……?」
異世界の神社
アキラはその場に立ち尽くし、周囲を見回した。どうやら先ほどまでの神社とは違う、異世界のような場所に迷い込んでしまったらしい。風が止まり、あたりは静寂に包まれている。
と、その時――。
「……アキラ……」
低く響く声が、遠くから聞こえた。心臓が一瞬止まるかのように感じ、アキラは声のする方に目を向けた。暗闇の中に、何者かの影が浮かび上がっている。
その影はゆっくりと近づき、輪郭が徐々に明らかになってくる。顔は見えないが、手足が異様に長く、痩せ細った体つきが闇の中でぼんやりと揺れている。
「アキラ……帰れない……」
囁くような声が耳元で響き、アキラの全身に鳥肌が立った。体は恐怖で動かず、足はまるでその場に縫い付けられたように動かない。
「……助けて……」
アキラは無意識に呟き、ふと本殿に目をやった。
神社の守り神
その時、本殿の中からかすかな光が差し込んでいるのが見えた。まるでアキラを誘うかのように、暖かな光が境内を照らし始める。
「あの光の中に……!」
アキラは意を決し、その光の元へ走った。背後からは、あの異様な影がじわじわと迫ってくる。だが、不思議と光の中に近づくほど、恐怖は薄れ、体が軽くなっていくのを感じた。
やがて本殿に駆け込んだ瞬間、目の前が真っ白な光に包まれ――
帰還
気がつくと、アキラは元の神社の境内に立っていた。周囲には何も変わった様子はなく、神社は静かに佇んでいる。
「……夢だったのか?」
あれほど鮮明に感じた恐怖はどこへやら、まるで夢から覚めたかのような気分だった。しかし、本殿に向かって静かに頭を下げると、どこからともなく風に乗って、柔らかな声が聞こえてきた。
「二度と夜に訪れるでないぞ……」
アキラはその声に応えるように小さく頷き、山を下りる道を急いだ。
異世界に引き込まれそうになった恐怖を胸に、アキラはもう二度と夜の神社には足を運ばなかったという。
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