目次
何気ないお参り
会社員のヨウコは、いつもと変わらぬ平日を過ごしていた。仕事のストレスや将来への不安が積もり、気分がどんよりと重たい。ある日、気分転換に昼休みを利用して、会社の近くにある小さな神社に立ち寄ることにした。
昼間の神社は穏やかで、平日のため参拝客も少なく、静かな空間が広がっている。鳥居をくぐると、神社の境内に射し込む木漏れ日が心地よく、澄んだ空気が体に染み渡っていくようだった。
「たまには、こういう場所もいいかも……」
心を静め、軽く手を合わせてお願い事をしてみた。
「どうか、これからの人生が少しでも良いものになりますように」
ヨウコは目を閉じて深く祈った。しばらくして目を開けると、ふと周りの様子が変わっていることに気がついた。
変わりゆく風景
気づけば、あたりは薄暗くなり、周囲にあったはずの社殿や手水舎は消え、代わりに不思議な霧が漂っていた。木々の間に浮かび上がるかすかな影が揺らめき、まるで時間が歪んだかのような異様な感覚が広がっている。
「え……ここ、神社だよね……?」
ヨウコは周囲を見渡したが、さっきの神社とはまったく違う雰囲気になっていることに気づいた。帰ろうと振り返っても、さっきまであったはずの鳥居がどこにも見当たらない。
代わりに、細い小道が奥へと続いている。
「おかしい……さっきまでここに鳥居があったはずなのに……」
足が自然と小道の奥へと進み出し、気がつけばヨウコは夢中でその先を歩いていた。心の奥底で、「行ってはいけない」という警告が頭をよぎったが、不思議な力に引き寄せられるように、足が止まらない。
過去の記憶の風景
小道を歩き続けると、目の前に見覚えのある家が現れた。それは、彼女が幼い頃に住んでいた、懐かしい実家だった。
「どうして……実家がこんな場所に?」
不思議に思いながらも、懐かしさに駆られて足を踏み入れる。家の中に入ると、どの部屋もそのままで、まるで時間が止まっているようだった。壁には幼い頃の自分と家族が笑顔で写っている写真が飾られ、台所からは母親の姿が見える気さえした。
「まるで昔に戻ったみたい……」
そう感じた瞬間、リビングの奥から誰かの気配を感じた。
謎の人物との対話
奥の部屋に入ると、ヨウコは驚いて足を止めた。そこには、彼女の姿にそっくりなもう一人の自分が座っていたのだ。そのヨウコは穏やかに微笑み、手招きしている。
「……どうしてここに?」
不安に駆られながらも、ヨウコはもう一人の自分に近づいた。
「ヨウコ、あなたは自分の人生に何を望んでいるの?」
問いかけられた言葉に、ヨウコは戸惑いながらも心の内を口にした。
「私……自分の人生が本当にこれでいいのか、自信がなくて……毎日が何かの繰り返しで、でも変えることもできなくて……」
もう一人の自分は静かに頷き、微笑んだ。そして彼女に、こんな言葉を投げかけた。
「では、ここから進むか、引き返すか、決めてみなさい。どちらを選んでも、その道があなたの人生になるのよ」
そう言うと、もう一人の自分はゆっくりと消えていき、代わりに小道の奥へと続く鳥居が目の前に現れた。
帰還とその後
鳥居を抜けると、ヨウコは元の神社の境内に戻っていた。霧も薄れており、参道にはいつもの明るい光が差し込んでいる。
先ほどの出来事が夢だったのか現実だったのか――ヨウコにはそれがわからなかったが、胸には不思議な達成感と清々しい気持ちが残っていた。
ヨウコは、無意識にもう一度神社に向かって手を合わせていた。そして「これからの道を歩く決心」を胸に、境内を後にした。
それからというもの、ヨウコの毎日は少しずつ変わっていった。自分の仕事にも新たな視点を持てるようになり、やがて未来に対しての不安も薄れていったのだ。
「白昼夢の神社」――それは彼女の人生を少しだけ変えてくれる、奇妙な体験となった。
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