高校生のカナは、小さい頃から近所の神社にお参りするのが好きだった。家族で訪れる年始のお参りだけでなく、学校の帰り道でもふらっと寄り、時々手を合わせて願い事をするのが日課になっていた。
ある日、夕方になりかけの時間帯に神社を訪れたときのこと。日が沈む直前で、空はオレンジ色から紫色に変わろうとしていた。いつも通り手を合わせて目を閉じたその瞬間、何か異様な気配を感じた。
目次
境内の異変
目を開けると、見慣れた神社の風景が、どこかおかしい。木々の色がどことなく違い、鳥居もなぜか影が濃く、不気味にねじれたように見えた。
「……なんだろう、この感じ」
まるで周囲が息をひそめたように、鳥の鳴き声も風の音も止んでいる。少し不安になりながら、カナはゆっくりと境内の奥へと進んでみた。
そこに見覚えのない小さな石の祠があり、祠には古びた扉がついている。扉には錆びた取っ手がついていて、重厚感があるが、なぜかカナはその取っ手に手を伸ばさずにはいられなかった。
異世界の神社
扉を押し開けると、カナの目の前に広がったのは見知らぬ風景だった。
夜が近いはずなのに、あたりは昼間のように明るく、空には見たこともない大きな月が浮かんでいる。見たこともない草木が生い茂り、風が彼女の頬を優しく撫でた。
「ここは……?」
カナが振り返ると、さっきまでいた神社は跡形もなく、そこには巨大な木が立っていた。目の前の鳥居も、さっきまでの神社のものとは違う。大きくて、どこか歪な形をしている。
周りには人の気配はなく、代わりにどこか遠くから太鼓のような音が響いているのが聞こえた。まるで何かが近づいてくるような、不気味な音だった。
異世界の住人
「帰らなきゃ……」
そう思い、カナが元の道を探そうと歩き出したその時、鳥居の奥から誰かの足音が聞こえてきた。
音の方を見ると、そこには人のような姿をした、しかしどこか異様な雰囲気を漂わせる存在が立っていた。白い仮面をかぶり、長い着物をまとったその人物が、ゆっくりとカナに向かって歩いてくる。
仮面の目の穴からは、何も見えないのに、カナは確かに見られていると感じた。その視線がどこか冷たく、まるで彼女をこの場所から逃さないかのようだった。
神社への帰還
カナは恐怖に駆られ、来た道を引き返そうと走り出した。しかし、どこを走っても、景色が少しずつ変わっていく。もともと木々が生い茂っていた場所が、暗い岩場に変わり、足元にはいつの間にか見たこともない植物が生い茂っていた。
(このままでは、帰れなくなる……!)
そう思ったその時、遠くにかすかな鈴の音が聞こえた。
その音が聞こえた瞬間、彼女の目の前に元の鳥居が現れた。鳥居は鈴の音と共にかすかに光り、カナに手招きをするかのように見えた。
迷わず駆け寄ると、鳥居をくぐった瞬間――。
元の神社に戻る
気がつくと、カナは元の神社に立っていた。空はすっかり暗くなっており、境内はいつもの静けさを取り戻している。
さっきまでの異世界は幻だったのかと思ったが、足元には異世界の草の葉が一枚だけ落ちていた。触れてみると、すぐにそれは崩れて消えた。
それ以来、カナはもう異世界への扉を開かないよう、神社に訪れると必ず「二度と異世界へ迷い込みませんように」とそっと祈るようになった。
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