ある平日の昼休み、仕事の疲れから少しでも気分をリフレッシュしたくて、僕は近所の小さな神社に足を向けた。都会のど真ん中にあるが、鳥居をくぐるとそこは静かで、街の喧騒が遠く感じられる。
昼間だというのに、境内にはほとんど人がいない。日が差し込む参道の石段を一歩一歩上がり、軽く頭を下げてから、ゆっくりと手を合わせて目を閉じた。
目次
境内での違和感
しばらく手を合わせた後、目を開けると――違和感があった。
鳥居の向こうに見えたのは、なぜか少し薄暗い景色だった。まだ昼間のはずなのに、木々の影がやけに長く伸び、冷たい空気が境内を包んでいるように感じられた。
「……気のせいかな」
自分にそう言い聞かせて、神社を後にしようと鳥居の方へ歩き出した。けれど、なぜか足が重い。まるで別の場所に引き寄せられているような、奇妙な感覚があった。
見知らぬ光景
鳥居を抜けると、僕はなぜか見知らぬ荒れた参道に立っていた。さっきまでの都会の小さな神社とはまるで違う。周囲には、朽ちかけた木々と雑草が生い茂り、辺りは静まり返っている。
「あれ……さっきまでの場所じゃない……?」
足元を見て驚いた。いつもならコンクリートの歩道のはずなのに、そこは苔むした石畳だった。振り返ると、鳥居も見慣れたものとは違っていた。歪んだ木製の柱に、苔がびっしりとこびりついている。
不安を感じながら、僕は参道を歩き出した。何かの気配を感じるが、辺りには誰もいない。ただ妙な感覚がずっとついてくる。
異世界の人影
やがて、境内の奥にさしかかったところで、視界の端に人影が見えた。
そこに立っていたのは、僕と同じくらいの年齢の男性だった。顔はやつれていて、どこか落ち着かない表情をしている。何かに怯えているようにも見えた。
「すみません、ここがどこか知りませんか?」
僕がそう声をかけると、その男はぎょっとしたようにこちらを見た。
「ここに来たのか……自分も戻れなくて困ってるんだ」
男はかすれた声でそう言い、無表情のまま僕をじっと見つめてきた。その目には、諦めと疲れが滲んでいるようだった。
白昼夢からの帰還
怖くなって「元に戻らなきゃ」とつぶやきながら、僕は参道を引き返し始めた。石畳を走り抜け、再び鳥居をくぐると――視界が急にぼやけて、足元がふわりと浮くような感覚が襲った。
そして、気がつくと、そこは元の静かな神社だった。さっきの荒れた参道も、人影も消えている。
「あれは……一体……」
心の中に不安が残るまま、僕は急いで会社に戻った。
不思議な出来事
それ以来、僕はしばらくその神社に足を運ばなくなった。だけど、ある日ふと思い立って神社の境内を再び訪れたとき、何か視界の端に気配を感じた。
振り返ると――あの日見た、あの男の人影が立っていた。
驚いて目をこらしたが、気づけばそこにはもう何もなかった。
ただ、そのとき確かに彼が僕を見つめていた気がしてならない。
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