目次
現実に疲れ果てて
30代のサトルは、仕事に疲れ、現実の生活に押しつぶされそうになっていた。毎日、夜遅くまで残業し、休日も仕事の電話が鳴り止まない。職場での評価も上がらず、周囲との関係もぎこちないまま。
ついにサトルは限界を感じ、無気力のまま会社を抜け出して近くの神社へと向かった。
「……もう、全てを投げ出したい……」
神社の境内には、誰もいない静寂が広がっている。古びた石段を上り、ひっそりとした社殿の前に立つと、心の底から願うように、サトルは目を閉じて呟いた。
「どうか……こんな生活から逃れさせてください」
その瞬間、微かな風が吹き抜け、辺りが不思議な光で満ちた。
異世界への扉
サトルが目を開けると、目の前には見慣れたはずの神社の風景がどこか違って見えた。さっきまであったはずの社殿が、いつの間にか淡い光に包まれ、どこか幻想的な雰囲気が漂っている。
「……ここ、神社だよな?」
サトルは戸惑いながらも、導かれるように社殿の奥へと歩き出した。やがて、社殿の奥に赤い扉が見えてきた。その扉は、見たこともないような美しい装飾が施され、淡く光っている。
「入っても……いいのか?」
そう思いつつ、扉をそっと押し開けると、目の前には――別世界の風景が広がっていた。
異世界の素晴らしい風景
扉を抜けた先には、広がる青い空と美しい草原、まるでおとぎ話のような景色が目の前に広がっていた。空には見たこともない鳥が優雅に舞い、花々が咲き誇っている。どこか懐かしさすら感じさせるその風景に、サトルは心を奪われた。
「……こんなところが、本当にあったのか……?」
サトルは夢中で草原の中を歩き出した。遠くには、どこか優しげで美しい人々が集まっているのが見える。彼らはサトルを見ると、にこやかに微笑み、親しげに声をかけてきた。
「こんにちは、あなたもこちらへようこそ」
驚きながらも、サトルは彼らに誘われるままに、集落へと足を踏み入れた。家々は木と石でできており、温かな風景が広がっている。食事の香りが漂い、どこからか優しい音楽が聞こえてくる。何もかもが穏やかで心地よく、サトルの疲れた心が徐々に癒されていくのを感じた。
「……ここなら、ずっと平和に暮らせるかもしれない」
戻りたくない世界
それからサトルは、異世界での生活を続けた。見知らぬ人々は皆、優しく親切で、サトルをまるで昔からの友人のように歓迎してくれる。毎朝、陽が昇ると、彼は青空の下で働き、夕暮れには集落の人々と一緒に食卓を囲んで笑い合う。
現実世界での苦しみが嘘のように、ここでは全てが心地よく、穏やかだった。仕事の重圧も、誰かに責められることもない。ただ日々を自然の中で過ごし、豊かな時を味わう毎日。
「もう、元の世界には戻りたくない……」
サトルは、ふと懐かしむように神社の方向を見やったが、もうあの赤い扉も見えない。異世界での生活にすっかり馴染んでしまった彼は、二度と元の世界に戻ることはないだろうと悟ったのだった。
忘れられた現実
それから何年も経ったかのように感じた頃、サトルは時折ぼんやりとした夢の中で現実世界を思い出すことがあった。厳しい上司や終わらない仕事に追われた、あの苦しい日々。だが、その思い出はもはや霞むように薄れ、異世界での幸せな日々が彼の全てとなっていた。
ある日、青空の下で仲間たちと穏やかに過ごすサトルは、心からこの世界を愛し、感謝を捧げた。
――彼にとって、現実世界での生活は、もう「別の世界の物語」に過ぎなかったのかもしれない。
神社の赤い扉の向こうには、サトルが夢見た理想の世界が広がっていた。彼は異世界での幸福を選び、現実の喧騒から永久に解放されたのであった。
■おすすめ
マンガ無料立ち読み
1冊115円のDMMコミックレンタル!
人気の漫画が32000冊以上読み放題【スキマ】
人気コミック絶賛発売中!【DMMブックス】
ロリポップ!
ムームーサーバー
新作続々追加!オーディオブック聴くなら - audiobook.jp
新品価格 |
ページをめくってゾッとする 1分で読める怖い話 [ 池田書店編集部 ] 価格:1078円 |