目次
神社でのお参り
会社勤めのサエコは、ある悩みを抱えていた。仕事で失敗が続き、上司からの叱責も日に日に厳しくなるばかりで、心身ともに限界を感じていた。どこかに気を休められる場所はないだろうか――そう思い立ったサエコは、近くの神社を訪れることにした。
昼休みに会社を抜け出し、神社まで歩くと、気のせいか、周囲の空気が少しずつ柔らかくなっていくようだった。古びた鳥居をくぐり抜け、境内へと足を踏み入れると、どこからともなく風が吹き、静かな参道が目の前に広がっていた。
「これで少しは心が落ち着けばいいけど……」
サエコは賽銭を入れ、手を合わせて願いを込めた。
「どうか私に力を……少しでも仕事が上手くいきますように……」
目を閉じて深く祈り、ふと顔を上げると――そこにあるべきはずの風景が一変していた。
白昼夢の世界
サエコが目を開けると、いつの間にか、神社の境内はまったく別の光景に変わり果てていた。参道にはどこか異様な霧が立ちこめ、石畳は黒ずんで歪み、空気は重く沈んでいる。
「さっきと何かが違う……」
異常な雰囲気を感じながらも、サエコは参道を進んだ。すると、石畳の先にぼんやりと人影が見えた。その人影は白い着物をまとい、顔は隠れて見えないが、じっとこちらを見つめているような気配がした。
サエコはぞっとしたが、なぜか目を逸らすことができない。影の方に引き寄せられるように、足を一歩ずつ動かしてしまう。
「……あの、どなたですか?」
意を決して声をかけてみるが、返答はない。ただ、影はゆっくりとサエコに背を向け、参道の奥へと消えていった。
境内の奥へ
気がつくと、サエコは再びその影を追うように、参道を奥へと進んでいた。奇妙な霧はますます濃くなり、周囲の景色がほとんど見えなくなっていく。
「ここは……一体……?」
やがて霧が晴れると、目の前には、古びた本殿が立ち並んでいた。しかし、それはいつも見ている本殿とは少し違う。柱には何かの古い傷跡が無数に刻まれ、扉には赤茶色の染みがこびりついている。
サエコは不安を覚えつつも、なぜか後戻りできない感覚に囚われていた。ふと、彼女は頭の中に浮かぶ声を聞いた。
「……いらっしゃい……待っていましたよ……」
その声はどこからともなく響き、サエコの中に冷たい感触が広がっていく。
神社の守り神の啓示
扉の前で立ち止まったその時、不意に背後から暖かな光が射し、耳元に柔らかい声が囁くように聞こえた。
「サエコ、ここにいてはいけない。」
振り返ると、そこには年配の巫女のような姿が見えた。彼女は穏やかな目でサエコを見つめ、ゆっくりと微笑んでいる。
「あなたは、この神社に縛られてはいけません。ここは白昼夢の世界――心の隙間に入り込むものが住まう場所なのです。」
その巫女が手を伸ばし、サエコの肩にそっと触れると、不安でいっぱいだった心がふっと軽くなった。温かく心地よい力が彼女を包み込み、先ほどの異様な世界が少しずつ薄れていくのを感じた。
「どうか、元の世界にお戻りなさい。」
サエコはその言葉に促されるように、静かにうなずいた。
目覚め
次の瞬間、サエコは再び神社の参道に立っていた。周囲には何も異変はなく、先ほどの異様な霧も消え去っている。
「あれは……夢だったの?」
サエコは賽銭箱の前で手を合わせ、静かに深呼吸をした。そこには元の静かな神社があり、重く沈んだ気持ちが少しずつ晴れていくような感覚があった。
その日以来、サエコは神社に来るたびに、参拝の後に背後から感じる暖かな気配を感じることがあった。そして、それが白昼夢の中で出会った守り神の優しい眼差しだと信じて、神社にお礼を伝えるようになった。
それ以来、サエコは神社に毎週通い、参拝するたびに新たな勇気と希望を心に感じるのだった。
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