その夜、アユミはなぜかどうしても眠れなかった。布団に入っても目を閉じるたびに頭の中で考えごとがぐるぐると回り、体は疲れているはずなのに、心は妙に冴えていた。
「どうして今日はこんなに眠れないんだろう……」
時計を見ると、もう夜中の2時を過ぎている。外からは虫の音が聞こえ、窓のカーテンの隙間からは月明かりが薄く差し込んでいた。
ふと、部屋の中で気配を感じた。かすかに何かが動く音がした気がして、アユミは布団の中で緊張した。耳をすませると、そこにはやわらかく、穏やかな声が響いた。
「眠れないのかい?」
驚いて顔を上げると、目の前には白く光る不思議な人影が立っていた。人影はまるで月明かりそのもののように淡く、どこか優しげな微笑みを浮かべている。アユミは思わず目をこすって、もう一度その影を見た。
「あなたは……誰?」
「ただの、夜を歩く者さ。眠れない夜はね、こうして迷い込んでくる人がいるんだよ。」
その声はまるで母親が子供をあやすかのように優しく、アユミの心がほんの少しだけ温かくなった。人影はそっとアユミの横に座り、何も言わずに窓の外を見つめた。部屋の中には、どこからかふわりと花の香りが漂ってきた。
「どうして、こんなに眠れないんだろう」とアユミがぼそりと呟くと、人影は微笑みを深くして答えた。
「そんな日もあるものさ。でも心配いらないよ。夜の間に、すべての疲れを溶かしてくれるから。」
その言葉を聞いたアユミは、不思議と心が軽くなり、まぶたが少しずつ重くなっていくのを感じた。人影の穏やかな存在が、まるで心をほぐしてくれているようだった。
気づけば、アユミはそのまま眠りに落ちていた。
朝の光
翌朝、アユミは窓から差し込む朝日で目を覚ました。部屋にはいつもと変わらない静けさがあり、昨夜の出来事が夢だったのか現実だったのか区別がつかなかった。
だが、ふと枕元に目をやると、小さな白い花が一輪、そっと置かれていた。昨夜の月明かりのような花びらは、アユミに何かを語りかけるように、穏やかに輝いていた。
それからというもの、眠れない夜が訪れても、アユミはあの不思議な人影を思い出して、そっと目を閉じると心が温かくなるのだった。
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