いつもの喫茶店で、私とリョウはアキラの話を聞きに集まっていた。アキラは、今日も静かにコーヒーを飲みながら話を始めた。だが、その語り口は、普段の怖さとは少し違っていた。
「今日話すのは、不思議だけど温かみのある話だ。相談に来たのは、小学一年生の男の子を持つ母親だった。共働きで仕事が遅くなり、子どもが家で一人になることが多いらしい。ところが、その子は『祖母がいるから大丈夫』って言うんだよ。」
「母親は初めてそれを聞いた時、背筋がぞくっとしたらしい。なぜなら、その祖母は1年前に亡くなっていたんだ。相談を受けた俺も最初は不気味に思ったが、実際に話を聞かないと何とも言えなかったから、子どもに会って話を聞くことにした。」
アキラはその時のことを少し微笑みながら思い出しているようだった。
「男の子は素直で明るい子だった。『お留守番、大丈夫?』と俺が聞くと、にっこりして『うん。おばあちゃんが来るから平気だよ』って答えたんだ。その話を聞いた瞬間、俺は妙に心が温かくなるような感覚を覚えた。」
リョウが興味深そうに聞いた。「それで、そのおばあちゃんはどうやって現れるって?」
「男の子が言うには、家に帰ってしばらくすると、空気がふっと変わって祖母が現れるんだそうだ。見た目は生きていた時と全く同じで、優しい笑顔で迎えてくれるらしい。そして、母親が帰る5分ほど前になると、必ず『また来るね』と言って消えていくんだとか。」
私は少し鳥肌が立ったが、不思議な感覚でもあった。
「それで、母親は怖くて仕方がなくなって、俺に相談に来たんだよ。俺はその話を聞いて、その子の家を訪れることにした。実際に家に入ってみると、空気は穏やかで、何か心地よい気配が漂っていた。悪意や重苦しさは一切なかった。むしろ、安心感を覚えたんだ。」
アキラは少し目を細めて続けた。
「部屋を見渡しているうちに、リビングの片隅に小さな仏壇があるのが目に入った。そこには祖母の写真が置かれていて、優しい笑顔を浮かべていた。その時、俺は確信した。この家に現れる『祖母』は悪霊ではなく、本当に孫を見守りに来ているのだと。」
リョウが感慨深げに言った。「それで、アキラはどうしたんだ?」
「母親にこう伝えたんだ。『子どもがもう少し大きくなれば、自然と祖母は現れなくなるだろう。それまでは心配することはない』って。そして、祖母が現れるのは悪意からではなく、生前どうしても孫の面倒を見てあげたかった気持ちの現れだと説明した。『だから、仏壇かお墓でお礼を伝えてください』ってな。」
「母親は少し涙ぐんで、『そうします』と答えた。それ以来、子どもも変わらず元気に過ごしている。祖母の愛情が、亡くなってもなお届いていたんだろうな。」
アキラは話を終えると、少しだけ笑ってみせた。その話を聞いていた私とリョウは、怖さよりも不思議な温かさを感じた。世の中には、恐ろしい霊だけでなく、こんな風に優しい存在もいるのだと実感したのだ。
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