僕は山岳地帯に滞在し、自然の生態系を調査・研究するため、数週間の泊まり込み生活を送っていた。静かな山の中での作業は心を落ち着かせるもので、動植物の観察が日課となっていた。ある日、天候に恵まれ、視界が非常にクリアな日だったので、僕は山小屋のテラスに出て双眼鏡を手に取った。
視線を遠くの向かいの山へ向けたその時、奇妙な動く影が見えた。影は木立の間でひょこひょこと動き、普通の動物とは違う動きをしている。興味を引かれて双眼鏡を覗いてみると、そこには信じがたい光景が広がっていた。
くねくねとした異形
双眼鏡越しに見えたのは、人間の顔と体を持ちながら、関節が異常なほど曲がりくねり、自然にはありえない動きをする生物だった。その体はまるで人形のように関節が逆方向に曲がり、しなやかで滑らかに動いていた。恐怖と興味が入り混じり、しばらくその生物を観察していると、それは地面の虫や草をつかみ、食べているようだった。
鳥のさえずりも風の音も聞こえる中、その光景だけが不気味に静まり返っているように感じられた。やがて、その生き物は森の中へとすべりこむように姿を消した。
「……一体何なんだ?」
僕の頭には数々の疑問が浮かび、全身に冷たい汗がにじんでいた。
異形の再来
それから数日間、その生物を目撃することはなかった。しかし、ある日の夕方、再び双眼鏡を手に山の向かいを観察していると、同じ異形の生き物が再び姿を現した。今回は動きがさらに不自然で、異様に敏捷だった。生物は森の端で何かを見つめているようだった。
突然、その生物がくねくねとした動きで勢いよく地面を這いながら鹿に向かって進んでいった。鹿は気づく間もなく、その生物に絡みつかれ、異様なほどの力で締め付けられた。鹿の鳴き声は一瞬だけ響き、やがて森の静寂に吸い込まれて消えていった。
双眼鏡の中でその異形の生物は、しなやかな手足を鹿の体に食い込ませるようにして捕食を始めた。口元には牙のようなものが見え、その瞳は虚ろで何も映していないかのようだった。見ているだけで、背筋にぞっとする寒気が走った。
不安の夜
その晩、山小屋の中で僕は落ち着かなかった。いつもは心地よいはずの森の音が、不気味な沈黙に変わっていた。もしあの生物がこの山にも現れたら――そんな考えが頭から離れず、双眼鏡を握る手に力が入った。
次の日からも、双眼鏡を持って向かいの山を観察したが、その生き物は二度と姿を見せなかった。けれど、あの奇妙な動き、異常な食欲、そして虚ろな瞳の光景は、心に深く刻み込まれていた。
それ以来、双眼鏡を覗くたびに、あの恐ろしい異形が再び現れるのではないかという不安が消えることはなかった。
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