目次
謎の贈り物
ケンジは祖父から古い双眼鏡を譲り受けた。それは祖父が若い頃に愛用していたもので、金属製の頑丈な作りをしており、細かな装飾が施されたクラシックなデザインだった。
「ケンジ、この双眼鏡には面白い話があるんだよ。遠くの風景を眺めると、時々見たこともないものが映るんだ」
祖父は笑いながらそう話したが、ケンジは冗談だと思って聞き流していた。
望遠の恐怖
ある晩、好奇心に駆られたケンジは、双眼鏡を手にベランダに出た。夜風が心地よく、星空が輝いていた。試しに近所の公園や遠くのビルを覗いてみたが、特に変わったものは見えない。
「やっぱり、ただの古い双眼鏡か……」
そう思いながら、ふと近くの廃墟になった古いアパートに視線を向けた。その建物は長い間空き家になっており、住人は誰もいないはずだった。
双眼鏡を通してアパートの窓を見たその瞬間――ケンジは思わず息を飲んだ。
3階の窓の一つに、人影が見えたのだ。それは薄暗い光の中でじっと外を見つめていた。顔は見えず、ただ黒い影のような存在がケンジの方を見返しているようだった。
「誰かいる……?」
驚いて双眼鏡を外して肉眼で確認したが、何も見えない。再び双眼鏡を覗くと、今度はその影が窓辺から消えていた。心臓の鼓動が速くなり、背中に冷たい汗が流れる。
突然の訪問
その夜、ケンジは何かに見られているような気がして、なかなか寝付けなかった。窓の外から微かに音が聞こえる気がして、何度もカーテンを確認したが、外は静まり返っている。
「気のせいだ……大丈夫なはずだ」
そう自分に言い聞かせて布団に潜り込んだが、急にコンコンと窓を叩く音が響いた。ケンジは恐怖で動けなくなり、体が震えた。再び音が鳴り、震える手でカーテンを少しだけ開けた。
そこには――誰もいない。だが、双眼鏡が置いてあるテーブルの方に視線を戻すと、その双眼鏡が勝手に動いているのが見えた。鏡筒がゆっくりと回り、まるで自分を見つめているかのようにこちらを向いていた。
映し出された真実
恐る恐る双眼鏡を手に取ると、再び覗く勇気はなかったが、何かに突き動かされるようにそれを目に当てた。双眼鏡の中には、自分の部屋の風景が映っていた。しかし、そこにはもう一人のケンジが立っていた。双眼鏡の中の彼は無表情で、目の焦点が合わず、少しずつこちらに近づいてくる。
「これは……なんだ?」
双眼鏡を外しても部屋には誰もいない。しかし、もう一度覗くと、その影はさらに近づき、まるで双眼鏡のレンズを通してこちらに出てこようとしているかのようだった。
急に背後から冷たい空気を感じ、恐怖に駆られて双眼鏡を床に叩きつけた。その音と共に部屋が一瞬静まり返り、外の風の音だけが聞こえてくる。
静寂の中で
その後、ケンジは双眼鏡を使うことをやめ、押し入れの奥深くにしまい込んだ。しかし、それ以来、夜になると時々窓の外から微かな音が聞こえる。
「誰かが見ている……?」
ケンジは双眼鏡を手にした時から、何かに見られている感覚を拭えなくなってしまったのだ。
その双眼鏡は、ただの望遠具ではなく、見てはならないものを映し出す道具だった。ケンジは今も、夜が来ると恐怖と共に耳を澄ましている。
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