目次
観察の始まり
主人公であるタカシは、生物学者として、山奥にある研究小屋に泊まり込みで自然の観察をしていた。周囲は静寂に包まれ、夜には森のざわめきや虫の声が耳に響く。そんな環境が好きで、孤独を恐れないタカシは一人での観察を楽しんでいた。
ある日、タカシは朝の光が差し込む中、向かいの山の斜面を眺めていた。静かな木々の間で何かが動いた気がして、双眼鏡を取り出して覗き込んだ。
双眼鏡の中で、木々の隙間に奇妙な影が見えた。人間のような体つきだが、関節があり得ない方向に曲がり、くねくねと滑らかに動いている。全身が白く、顔は人間に近いが、無表情でその瞳はどこを見ているのか分からない。
「なんだ……あれは?」
タカシの胸には薄ら寒い恐怖が広がった。その生き物は、ゆっくりと草をかき分けて移動し、時折地面に口を近づけて何かを食べているようだった。虫や草を食べているのだろうかと考えたが、その光景には不自然な違和感があった。
森の静寂
その生き物はしばらくして森の奥へと入って行き、姿を消した。タカシはしばらくその場所を注視していたが、再び姿を現す気配はなかった。あまりの気味の悪さに背筋がぞくりとし、双眼鏡を下ろすと、自分の鼓動が早まっているのを感じた。
「……見間違いか?」
だが、その光景が頭から離れなかった。タカシは一日中その不気味な生き物のことを考えていた。夜になり、風が研究小屋の窓を揺らし、かすかな音を立てた時も、その生き物の奇怪な動きが脳裏に浮かび、眠れなかった。
再びの遭遇
数日後、早朝の観察をしていると、再びあの生き物が向かいの山に現れた。今回は前よりもはっきりと見え、双眼鏡越しにその動きを追うタカシの手は震えていた。
生き物は前回と同じようにくねくねと動いていたが、今回は鹿の群れに近づいていた。最初は慎重に、そして次第に素早く動き出すと、驚くべき速さで一頭の鹿に飛びかかった。ありえないほど曲がった手足で鹿を絡め取り、締め上げる。
鹿は抵抗したが、その力に勝てなかった。やがて力尽きた鹿に顔を近づけると、信じられない光景が広がった。生き物は歯のない口を大きく開き、食らいついていた。タカシは息を飲み、目が離せなかった。視界の中で、生き物が鹿の肉を食べる様子は異様で、恐怖のあまり全身が凍りついた。
「こんなものが、この山に……」
逃れられない影
その後も、タカシはその生き物のことを忘れられなかった。研究目的で訪れた山が、突然異常な存在によって恐ろしい場所に変わったのだ。数日間はその生き物が現れることはなかったが、タカシは森の音に敏感になり、夜に外で動く音が聞こえるたびに背中を硬直させた。
そして、ある夜。静けさを切り裂くように、小屋の周囲からかすかな音が聞こえてきた。くねくねと動く音――あの奇妙な生き物の動きを想起させる音だ。タカシは窓を恐る恐る覗き込んだが、何も見えない。
その夜は、森の闇が普段よりも深く感じられ、風が木々を揺らす音が不気味な囁きに聞こえた。
タカシはもう、その生き物を忘れることはできなかった。山の自然の中には、まだ人が知らない恐ろしい存在が潜んでいるのだと、心に刻まれていた。
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